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第20章⑫
マネージャーたちと別れた後、カトウはロビーに置かれたソファに腰を下ろした。
一人で聞き込みをする経験は、初めてだった。振り返って、割とうまくいったのではないかと思った。もっともクリアウォーターがあらかじめマネージャーをうまく丸め込んでくれていなければ、そもそも従業員に話を聞くこと自体、難しかったろうが。
ソファに背中を沈め、カトウは聞き込みの間にメモしたことを見返す。
清掃係が施錠されていた部屋を開けたのが、午前十時ごろ。彼女は従業員らしい男に頼まれたと言っていたが、マネージャーに確認したところ、ホテルの従業員の中に、清掃係が証言する容貌の人物はいない、とのことだった。電球が切れたという話も、フロントに記録がない。警備の甘さを知った物盗りが裏口から入り、従業員を装って犯行に及んだというのが、真相のようだ……。
そこで、カトウは不自然さに気づいた。
カトウがクリアウォーターと共に、ホテルに戻ってきたのは、昼の遅い時間だった。その時点で少佐のカバンに似顔絵はあったし、部屋も施錠されていた。つまり盗まれたのは、そのあとということになる……。
「…何時間も、部屋に居座ってたってことか?」
カトウは背中がゾワッとした。単なるコソ泥のしわざとするには、何かが噛み合わない。
侵入した先で何時間も待ったのに、盗んで行ったのはフェルミの描いた絵だけだ。クリアウォーターのカバンの中には、もっと価値のあるものがあるだろうし、なんならカバンごと持ち去ればよかったはずだ。どうして、似顔絵だけを持ち去った?
本当に、ただの物盗りが偶然、クリアウォーターと加藤の部屋に押し入っただけなのか?
「……」
自分は心配のしすぎなのかもしれない。でも、もう一度、清掃係の娘に話を聞くくらいの手間は取ってもいいだろう。特に、物盗りの特徴について--。
カトウが再びフロントへ向かいかけた時、ちょうどエレベーターが到着した。降りてきたクリアウォーターはロビーを見渡し、部下の姿を見つけると一直線にそちらへやって来た。
「カトウ! 急いで出かける準備をしてくれ。拳銃は持っているね」
銃の有無を確認され、カトウの身にさっと緊張が走る。
「何ごとです?」
部下の問いに、クリアウォーターは最小限の言葉で答えた。
「カナモトが現れた」
事態の詳細な状況については、クリアウォーターたちを迎えに来た対敵諜報部隊 の要員が説明してくれた。
「今村和時が、電話で知らせてきたんです」
それは、午後九時ごろのことだったという。今村はかなり慌てた様子で、朱色の髪の少佐と話がしたいと、繰り返し訴えた。電話に出た職員がなだめ、やっと落ち着かせたところで、今村は話し出した。
「金本勇が、俺の下宿にやって来たんです。少し話をして、それから彼は隠れ家にしているという廃工場へ引き上げました。俺はこっそりあとをつけて、工場の場所を突き止めました。今、そこから一番近い公衆電話にいます。住所と目印になるものを言いますので、急いで来てください…ーー」
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