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丹心哀歌 第20章⑭ | 伊吾盾子の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
丹心哀歌
第20章⑭
作者:
伊吾盾子
ビューワー設定
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第20章⑭
対敵諜報部隊
(
CIC
)
の要員七名に、カトウが加わり、計八名で工場内へ突入することになった。 目的はカナモトが潜伏しているかどうかの確認と、そして拉致された今村を見つけて保護することである。突入部隊に、日本人の警官は入っていない。対敵諜報部隊が携行してきた火器類を、一時的とはいえ貸与することは認められないからだ。 拳銃のみを下げてきたカトウは、
トミー・ガン
(
短機関銃
)
と、そして銃弾を借り受けた。クリアウォーターが言うようにカナモトがすでに逃げたか、それとも工場の片隅で息をひそめているか、判断はつかない。しかし、少なくとも突入部隊を率いる対敵諜報部隊の大尉は、カナモトが隠れているという前提のもとで動き、カトウたちにも、そのように注意を与えた。その指示は的確で、従っていれば問題ないと、カトウは判断した。 突入部隊の行動はこうだ。
定石
(
じょうせき
)
通り入口から入り、内部のセクションを、一つ一つ地道に
安全確認
(
クリア
)
していく。その間、クリアウォーターを含む残りの人間は、工場の外に散らばって、警戒にあたる。もし、カナモトが突入してきた人間の目をかいくぐって、外に逃げたとしても、直ちに見つけられるはずだった。 「では、いくぞ!」 大尉のかけ声で、銃器を携行したアメリカ兵たちは出発した。 歩きながら、カトウはこっそり上司の姿を探した。暗闇でもクリアウォーターの赤毛は目立つので、すぐに見つけられた。二十メートルほど離れたところで、警戒に当たっている。その姿をカトウは一瞬、目視しただけで、すぐに前方に視線を戻した。 --……ずるい
男
(
ひと
)
。 クリアウォーターに怒っているのか、それとも簡単に心をぐらつかせた自分に怒っているのか、にわかに判断できなかった。 --ここに残ってほしい。これは、私のわがままだ--。 そう言われて、カトウはあやうく決意を翻しそうになった。クリアウォーターと未だケンカ状態になかったら、そうしていたかもしれない。けれど結局、自分の決断に従った。 --これは、俺のわがままだ。 普通の人間なら二の足を踏むような危険な場所でも、通常時と遜色ない精密な射撃ができる。それこそがカトウの強みであり、このような場で
生
(
い
)
かさない手はなかった。 工場内部は、ほぼ光がささない空間だった。 戦争末期、大阪はいく度も空襲を受けたが、この工場は大規模な火災は免れたようだ。屋根や壁といった外郭部分はほぼ原型をとどめ、放棄されたゴム製品や機械の残骸があちこちに転がっている。 カトウたちが最初に行ったのは、内部の構造把握だった。外から観察した時、窓のつき方から二階建てだと予測されたが、その通りであった。だとすると、階段を登り、上層部分も確認する必要がある。 ライトの助けを借りて、武器を持った人間たちは進んでいく。敵から視認される危険を冒しているが、やむを得ない。もしカナモトが明かりを目印に攻撃を試みてきた場合、すみやかに反撃し、そのまま人数と火力にものを言わせて、制圧することになるだろう。 トミー・ガンを構え、カトウは五感を研ぎ澄ませた。耳はわずかな音も聞き逃さないよう、そして目はできるだけ暗闇を見つめ、動くものがないか警戒する。足元には、至るところに金属片が転がっている。踏み抜けば、悲惨な結果になるのは目に見えている。できるだけ、前の人間が歩いたところを歩くよう注意した。 そうやって、二十メートルほど進んだ時だった。 変化は急激に訪れた。 それまで自分達の息づかいと地面を踏む音しかしなかった空間に、突然、大音量の弦楽器の調べが響きわたった。 想定していない状況に、
対敵諜報部隊
(
C I C
)
の大尉も、他の要員もとっさに動けなかった。ほとんどの者が、反射的に音が流れてくる方向に銃口を向ける。 ただ一人、カトウだけが周囲全てに目を走らせた。そして、気づいた。地面の上を小さな炎が、鎌首を浮かせた蛇のような動きで近づいてくる。 その正体は、ガソリンを染み込ませた手製の導火線だった。 「--伏せろ…!!」 言い終えるより先に、雷が至近に落ちた時のような音と衝撃が、カトウたちに襲いかかった。
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伊吾盾子
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