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第21章⑤

 …P-51「マスタング」の操縦席で、ヴィンセント・E・グラハム少佐はを見た。  奇襲をかけるべく狙いを定めた日本軍機の集団の中から、一機の戦闘機が突然、飛び出してきた。それは、旧式の「オスカー()」だった。高度を上げたオスカー()はまるで、鳥が仲間たちに危険を知らせるように、空中で大きく弧を描いた。その動きで、グラハムは悟る。 --気づかれたか…!   だが今更、攻撃を中止する気もなかった。 「全機、突撃!!」  グラハムの声が、無線をかけぬける。隊長に続いて、二十機余りのP-51が一斉に日本軍機の編隊に襲いかかった。  グラハム率いるP-51 集団がこの日、屋久島付近を飛行していたのは、いくつかの偶然が重なった結果だった。  数日前、グラハムは硫黄島に設置されたアメリカ陸軍航空部隊の指揮所に呼び出された。  そこで、来たる本土上陸作戦を見すえ、長距離飛行訓練も兼ねて、九州南方の島々を視察することを命じられた。本来、この任務はグラハムではない別のパイロットが拝命する予定であった。しかし、くだんの人物が硫黄島着陸時に機体故障で不時着し、負傷したため、急遽、グラハムに白羽の矢が立った次第だった。  グラハムは任務の概要を聞いた後、指揮官に言った。 「飛行目標地域は、まだ日本の制空権下にありますね」 「その通り。頻度こそ減っているが、沖縄へ向かう特攻機が、九州南部の飛行場から飛んでいる」 「もし日本軍機を発見した場合、即時、撃墜してかまいませんね?」  その言葉を聞いた指揮官は、発言者の顔を眺める。  四月以来、グラハムの部隊はB29に随伴して、何度か日本上空を飛んだ。日本の戦闘機とも交戦し、その都度、戦果を上げている。しかし紳士的な容貌と裏腹に、このパイロットは狼のように貪欲なようで、敵機と見れば、攻撃せずにはいられないらしい。その積極的な姿勢は、本来評価されてよいものだ。  しかし、指揮官はこの時、どういうわけか一抹の不安を覚えた。 「あくまで任務完遂が優先だ」  そう釘を刺した上で、彼は言った。 「それを満たせば、あとは君のやりたいようにやりたまえ、少佐」   グラハムは、「やりたいように」やった。  誘導役のB29に先んじて、沖縄方面へ向かう日本軍機の集団を発見すると、大胆な奇襲を試みたのである。巨躯で視認しやすいB29をあえて接近させ、その間にP51たちは側面にまわり込んで、太陽光を背に接近する。うまくはまれば、最初の一撃で、敵に大きな損害を与えられただろう。  しかし残念ながら、直前で気づかれてしまった。  P51に蹂躙される寸前、日本軍の戦闘機たちが動いた。十数機の機体--グラハムも一、二度しか見たことがない新型機--が、旧式のオスカー()たちを守ような構えを見せる。その動きで、オスカーたちこそ沖縄へ向かう特攻機だと、グラハムは正しく看破した。  グラハムは、率いてきた部下たちの内、もっとも総飛行時間が短い二機に、逃げるオスカー()たちを追うよう命じた。

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