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第24章③
荻窪へ戻る道中、ジープはアイダが運転した。助手席にはカトウ。背後の座席にサンダースが乗車する。その配置に、カトウは今回の事件がはじまった日のことを否応なく思い出した。
西多摩郡の山村にある神社で、小脇順右の死体が発見され、その調査にカトウとクリアウォーター、アイダの三人で向かった。あれから、まだひと月も経っていない。そして、あの日、後ろの席に座っていたのは今もなお、大阪の病院で眠り続けるクリアウォーターだった…。
カトウは、左腕を右手で強く握り締めた。そうしないと、身体が震えて涙があふれそうだった。職務に集中している間、抑えられていた不安が、急にまた頭をもたげてきた。
参謀第二部 でサンダースとアイダに再会した時、カトウは真っ先に謝罪した。
守るべき人間 を守れなかった。あまりの不甲斐なさに、自分でも情けなくなる。しかし、中尉も准尉もカトウを責めなかった。
「ーー少佐の悪いところが出てしまったな」
アイダが嘆息して言った。
「殺人犯が潜んでいる火事場に飛び込むなんて、絶対にやってはいけなかった。俺がそばにいたら、殴り飛ばしてでも止めていた。だが結局、お前を助けるために自分から危険な所へ足を踏み入れたし、また似たようなことがあれば、同じことを繰り返すだろう。正直、判断が甘いと言わざるを得ない。だが…そういう行動を取るのが、あの人のあの人であるゆえんなんだろう」
「少なくとも、貴官は無事だった。そのこと自体は、喜ぶべきだ」
慰めのつもりだろう。サンダースは生真面目な顔で言った。しかし、カトウの心はわずかばかりしか晴れはしなかった。
ーークリアウォーター少佐のそばへ飛んでいきたい。
もちろん、そんなこと出来はしない。よほどのことがない限り、今日のように飛行機で運ばれることは、そうそうないだろう。カトウは東京へ戻ってきた。黒木の起こしている事件を解決するために、ここで、U機関の一員として最善を尽くす以外にない。
カトウが自分の心とどうにか折り合いをつけているうちに、ジープは荻窪駅近くを通り過ぎ、まもなく停車した。
「…准尉? ここ、曙ビルチングですが、U機関に戻るんじゃなかったんですか?」
「お前はここで降りろ、カトウ。中尉の命令だ」
訳がわからず、カトウはサンダースの方を振り向く。生真面目な性格の中尉は、生真面目な口調で言った。
「少なくとも明日は丸一日、寮で寝ておくんだ。やむを得ない事情があったとはいえ、本来なら貴官はまだ、入院していなければいけないはずだ」
「いえ、でも…」
「必要な場合は来てもらう。だがそうでない限りは、おとなしく身体を休めるように。いいな?」
「……」
「返事は?」
「イエス・サー」
しぶしぶ言って、カトウはジープを降りる。付き添いで降りたアイダと曙ビルチングの入口で別れると、夜道へ消えていく車の影を、無言で見送った。
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