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第24章⑮
U機関にあえて連絡を入れずに、カトウは行くことにした。もし電話などしたら、間違いなく「来るな」と言われるだろう。カトウはサンダースに叱られるのを覚悟の上で、ウィンズロウにジープで荻窪まで送ってもらった。
三階建ての洋館の正面扉を開けると、音を聞きつけたのだろう。資料室からフェルミがぴょこんと顔をのぞかせた。顔の半面に戦傷を負った伍長は突然、現れたカトウを見て、片方しかない目をぐるりと回す。それから、ぷりぷり怒り出した。
「もう! どうして来たの? 寝てなきゃダメだって、言われたでしょ」
「いやぁ。昼間はずっと寝てたんだけど、実は、ちょっと気になることがあって…」
日中、調布飛行場へ出かけたことをカトウは伏せておくことにする。しかし、その試みは、カトウの背後からウィンズロウが現れたことで、あっけなく失敗した。
「あら、絵描きの伍長さん。こんにちは」
「あ、前に調布の飛行場でダンと会ってた……エイモス・ウィンズロウ大尉?」
「そうよ。あの時は、どーも」
「こちらこそ。かっこいい飛行機を見せてくれて、ありがとう。…あれ? でも、どうしてジョージ・アキラ・カトウと一緒なの?」
「このおチビさんを、飛行場から車で送って来たのよ」
嘘をあっさりバラされたカトウは、フェルミの非難のこもった視線から目をそむけた。
「…ジョージ・アキラ・カトウ? どういうこと」
「……悪い。出歩いてた。黒木の過去が、どうしても気になって…」
カトウはその時になってようやく、建物の中にまったくと言っていいくらい人の気配がしないことに気づいた。
「あれ。そういえば、サンダース中尉たちは?」
「みんな出かけちゃってるよ。あ、そうだ!! 今、大変なことになってるんだ」
「どうした?」
「見つかったんだよ! 黒木栄也が」
「…本当か!? どこだ。奴は、どこにいたんだ?」
「九州の南。それも、出張中のセルゲイ・ソコワスキー少佐やジョン・ヤコブソンたちと鉢合わせしたらしいんだ」
フェルミはカトウとウィンズロウを、先ほどまでいた資料室へ通す。そこで、知る限りの事情を二人に説明した。
ソコワスキーとヤコブソンは別の事件の捜査で、九州に出張中であったが、たまたま立ち寄った駅で、列車から降りてきた黒木と遭遇したらしい。そこで逃走犯の変装に気づき、黒木を捕まえようとしたものの失敗。負傷者を出し、またしても逃げられてしまったという。
「ーー怪我人は出たけど、ジョン・ヤコブソンも含めて全員無事だって。でも、ジョン・ヤコブソンは病院に運ばれたらしいんだ。それ以上、詳しいことは、ぼくにも分からない」
「そうか…」
ヤコブソンは、わずか四ヶ月ほど前に銃撃戦に巻き込まれ、腕を撃たれて入院した。その傷が癒えて、それほど日が経たないうちに、再び暴力的な現場に居合わせる羽目になった。
なんとも運が悪い、とカトウは同情した。それでも、黒木相手に死者が出なかったのは本当に不幸中の幸いだった。
「黒木栄也が見つかったって知らせが来た後、スティーヴ・アートレーヤ・サンダースは、リチャード・ヒロユキ・アイダと一緒に、参謀第二部 に行っちゃったんだ。それが、ほんの三十分くらい前。ケンゾウ・ニイガタとマックス・カジロー・ササキは、その前にもう出かけてた。二人とも今頃、ニュースを聞いてびっくりしてると思うよ」
聞き終えて、カトウは嘆息した。
黒木は、まんまと逃げ出した。しかし発見された場所は、九州南部である。どういう理由でそこを訪れたかは定かではないが、すでに一帯に非常線が張られたのは、間違いない。
G H Qは威信をかけて、今度こそ黒木を捕まえるだろう。
唯一、心配があるとすればーー。
「お偉いさんたちの顔が、目に浮かぶわ。きっと今頃、石炭を目一杯、突っ込まれたボイラーみたいに、真っ赤になってるに違いないわね」
頬杖をつき、ウィンズロウがうそぶく。
「ここまでくると、黒木を捕まえるのに多分、生死は問わないでしょうね」
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