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第24章⑱
…その十五分後。
家を飛び出した黒木は、老人の忠告に反し、教えられた金旻基の家があった場所へ走った。
たどり着いた先には、それなりに大きかったことがうかがえる建物の残骸が、雪の中に音もなく埋もれていた。
焼けて炭化した木材。燃え、崩れ、土に還ろうとしている土壁。村では珍しかったであろう瓦屋根も焼失時に地面に落ちて砕け散り、大小の破片が雪の下からわずかに突き出していた。
主屋も、位牌を安置していた小さな祠堂も、炎によって徹底的に破壊されていた。
「ーー金旻基 の一家は、『親日派 』の烙印を押されたんだ」
老人は板間に黒木を座らせ、猟銃を自分の傍らに置き、小声で語った。
「旻基の三男。蘭洙 が日本の軍人となり、特攻隊に志願して死んだことは、村中に知れ渡っていた。わざわざ日本人の役人が戦死の報せを持って来て、家族の写真まで撮っていったからな。それが六月のことだ。…だが日本が戦争に負けて、この村にもソ連兵と共産党の奴らがやって来た。奴らは金旻基の家へ押し入り、旻基と長男の仁洙 を殺した。共産党の連中は二人のことを、『朝鮮民族の誇りを忘れ、帝国主義に魂を売った売国奴だ』と叫んでいたよ。奴らは二人を殺し、金目のものを奪うと、家に火をつけた。旻基の妻と仁洙の妻は、その前に逃げ出して近くの家に匿われていた。だが旻基の妻は、夫と息子を求めて燃え上がる家に飛び込み、そのまま焼け死んだ。残った仁洙の妻も、数日後に焼け残った庭のモクレンの木で、首をくくっているのが見つかった」
家の中はクドゥル で暖められているはずなのに、黒木は少しもそれを感じられなかった。
自分の足元が揺らぎ、崩れる感覚に襲われた。
「…見せしめのためだろうな。共産党の連中は、焼けた三人の亡骸をバラバラにして川に捨てた。その間にソ連兵は村のあちこちで略奪をして、終わるとようやく去っていった。だが、その後も奴らは時々、村へ来ている。さっきも言ったが、面倒に巻き込まれたくなければ、ここを立ち去って他所 で暮らせ。もし家譜があるなら、捨てるか書き換えて、金旻基の一家とのつながりは消しておくんだな」
…黒木は雪の上で、膝を折った。焼け跡を見つめる両目から涙がこぼれ落ち、雪の白い結晶に吸い込まれて消えていく。
「……バカ野郎」
雪とその下の灰と土を掻いて、黒木はうめいた。
「バカ野郎、バカ野郎、バカ野郎が…!!」
金本の姿が、まぶたの裏に甦 る。
入院した陸軍の病院で、家族宛ての手紙をしたためていた。
調布へ来た父親に、戸惑いながらも大切に接していた。
日本人の迫害から家族を守るために、金本は特攻へ行くことを受け入れ、結局、死んだ。
その結果ーー残された家族は日本を敵とみなす人間たちに、ことごとく殺されてしまった。
「お前が死んだからだぞ、蘭洙!! お前さえ生きてりゃ、こんなことには……」
陰鬱な天空をふり仰ぎ、黒木は絶叫した。
「ぅあああああああああああああああああーーー!!!」
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