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第25章④

 蓮田は居合わせた人間の数を確かめ、舌なめずりした。「目標」と、それ以外五人ーー。  警官の一人が、至尊の位にある男の前でひざまずいた。 「陛下! お眠りをさまたげて、誠に申し訳ありません」  そう口上を述べる間にも、煙のきな臭いにおいが濃くなっていく。 「今すぐ、お逃げください。火がーー…」  無防備な警官の後頭部に、蓮田は隠し持っていた拳銃を突きつけ、引き金を引いた。  発砲音とともに、警官の頭が弾け飛んだ。  突然の銃声に、反応できた警官は一人だけだ。銃をぬこうとする相手を、蓮田は次の標的にした。至近距離から、狙いやすい胸部に二発。二人目が倒れ、残る警官は二人となる。  ここで、ようやく状況を理解した一人が、決死の覚悟で蓮田に飛びかかった。狙いを定めるタイミングを失し、もみ合いになる。だが、この時点で、既に蓮田たちの方が数で優っている。それに心構えもできていた。柴田がナイフを両手に持ち、暴れる警官のみぞおちを深く刺す。刺された警官が痛みで怯んだところで、蓮田が拘束から逃れ、拳銃でとどめを刺した。  最後の一人は身を挺して、エンペラー(天皇)と侍従を逃そうとした。だが、廊下に出ようとしたところで、戻ってきた松岡と鉢合わせした。  松岡は自分でも驚くくらい冷静に対処した。持っていた拳銃を構え、警官の太ももを狙って引き金を引く。  銃声の残響に、苦悶の声が重なった。撃たれた警官は、足からおそろしい勢いで血を流した。磨き上げられた板の廊下に、みるみる赤黒い水溜りが広がっていく。その光景を目にした松岡に、ようやくためらいが生じた。  もう抵抗はできない。見逃しても、問題はないのではないかーー。  松岡の迷いは、廊下に出てきた蓮田によって解決された。  うめき、叫ぶ男の後ろから二発。銃声が消えた後、警官は叫ぶのをやめていた。永久に。  松岡に向けた蓮田の目に、軽蔑の色が浮かんでいる。しかし、ためらったことを責めて時間を無駄にすることはなかった。 「ーー『目標』確保だ。行くぞ」  立て続けに響いた銃声は、外で消火に当たっていた人間全員の耳に届いた。邸内で発生した異変はそれで知れ渡った。しかし、第二陣の警官隊が建物内部を捜索し始めるより先に、松岡や蓮田は寝室から消えている。移動した彼らは、この家で唯一の洋間に全員で立て籠った。  二名の人質ーーエンペラー(天皇)と居合わせた侍従を連れて。 「近づくんじゃねえぞ!!」   ドアの隙間から、蓮田はドスの効いた声で言い放った。 「もし、それ以上近づいたら、人質の頭を吹き飛ばすぞ。それから…」  蓮田は間を置き、廊下の向こうにいる警官たちが耳をそば立てている姿を想像して言った。 「この部屋の床下には、地雷が埋まっている。むやみに近づくと、ドカンだぞ。それと部屋の中にはダイナマイトがある。爆発したら、派手な花火が上がって、ここにいる全員が木っ端微塵だ。いいか? 分かったな」  蓮田は言うだけ言って扉を閉じ、柴田を呼ぶ。 「ドアの前に立ってろ。外でおかしな気配がしたら、すぐに知らせろ」 「了解です」  籠城の準備を終えて、蓮田はようやく人質たちへ向き直った。  二人は松岡たちに囲まれ、銃を向けられている。侍従は青ざめ、エンペラー(天皇)はいまだ寝巻きのまま、呆然と立ち尽くしていた。 「…まあ、まずは座っていただこうか」  背もたれとクッションに刺繍が施され、いかにも高価そうな肘掛け椅子に、蓮田はドサッと腰を下ろす。 「これから、夜明けまで長丁場になる。せいぜいその間、楽に過ごそうじゃないか」

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