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第26章②

 ウィンズロウを先頭に、フェルミとカトウが並んで真っ暗な飛行場内を進んでいく。カトウは暗闇での行動に慣れているが、フェルミは目的地につくまでに二回ほど転倒した。二度目の転倒時、フェルミをたすけ起こすカトウのそばで、ウィンズロウが独り言のように呟いた。 「電気が全くつかないわね。ーー本気でマズい事態かも」 「どうして?」  立ち上がったフェルミの疑問に、ウィンズロウが答える。 「単なる警報器の故障なら、格納庫とか建物の窓が明るくなってもおかしくない。でも、ついてないのはーー電気をつけたらその光で、上空から見つかる危険があるってこと」  ウィンズロウの予想は当たった。  カトウたちが管制部にたどりついた時、三人の夜間勤務者とアラルド中尉が、張りつめた様子で備えつけのレーダーを囲んでいた。一人は電話を手にし、もう一人は無線機でどこかと交信を試みている。声をかけるのも憚られる雰囲気だ。  もっとも、それくらいのことでウィンズロウが遠慮するはずもなかった。 「ハァイ、夜勤組のみなさん! こんばんは。元気?」  突然背後から上がった陽気な声に、男たちが何ごとかと振り返る。懐中電灯を持つウィンズロウを認めた瞬間、アラルドがめまいに襲われたように、片手で顔を覆った。 「今夜のお客さんたち、連れてきたわ。誰か、防空壕に案内してあげて。でもその前に、状況を教えてくれる?」 「…日本軍の戦闘機が二機、九州方面から北東に飛んできている」  アラルドの言葉に、ウィンズロウは眉根を寄せた。 「えーと。ワタシの記憶が正しければ、日本は二年前に連合国に無条件降伏したはずよね。なんで今頃、戦闘機が飛ぶの? 隠れてた抵抗勢力が、長い冬眠から、やっと目覚めでもしたの? あ、今は夏だけど」 「俺が知るか!」  アラルドが叫んだ。 「確かなのは、!! それ以上の情報はない。無線や電話でジョンソン基地に問い合わせているが、夜勤の通信担当者はヒステリーを起こしていて、まともに話ができる状態じゃない」  ウィンズロウは喚く同僚に向かって、両手をあげてなだめた。 「ーー色々、聞きたいことはあるけど。まず、大事なことを教えて。その戦闘機が飛び立ったのって、いつ?」  アラルドの返答は、これも「分からない」だった。 「とにかく、飛行場の位置を悟られないために最大限、努力しろと言われた。だから、ここ以外の電気をつけないようにしている」 「ふむ」  ウィンズロウは目を閉じた。 「仮に巡航速度が時速三百キロだとして。九州から東京を目指して飛んでくるとすると。一時間で四国上空、二時間で名古屋あたり、三時間くらいで東京の上空に到達するわね。それにしても、九州に日本の戦闘機ねえ。一体、どこの誰が何を目的に…ーー」  ウィンズロウの言葉が、途中で途切れた。目をみはり、自分の思いつきに流石に「まさか」と思いとどまる。  しかし、場所もタイミングも、使われている航空機もーーある人物を想起させる要素が、そろいすぎていた。  ウィンズロウは、連れてきた客人の方を振り返った。ジョージ・アキラ・カトウ軍曹は、アラルドとウィンズロウが話している間に、夜勤の男から電話を借りていた。そばに、フェルミもいる。  受話器を手にするカトウの肩を叩き、ウィンズロウは強引に注意を向けさせた。 「ちょっと! 九州から戦闘機で飛び立った人物って。黒木栄也ってことは、ありえないかしら?」  カトウは電話機にくいついたまま、ウィンズロウをちらりと見上げた。 「ーーそんなの。」  答える声には、揺るぎない確信がこもっていた。 「やつは、追いつめられて九州に行ったんじゃない。最初から、隠匿していた戦闘機を使うために向かったんだ。最後の標的を仕留めるためにーー…くそっ! なんでつながらないんだ!?」 「ちょっと、おチビさん。あなた、さっきからどこにかけてるの?」 「対敵諜報部隊(C I C)ですよ」  カトウは電話を一度切り、ダイヤルをもう一度、回し始めた。 「対敵諜報部隊(C I C)は、全国に支部を持っている。現地にいる要員に連絡すれば、黒木が殺そうとしている相手を、別の場所に避難させることができるはずです…」 「待って、カトウ軍曹。あなた…黒木が誰を狙うのか、見当がついてるわけ?」 「……証拠はありません。でも自分の推測に、今回だけは自信があります」 「誰なの? 巣鴨にいる日本の軍人? それとも東京にいるアメリカ軍関係者? …まさか、マッカーサー元帥とか言い出さないわよね」 「どれも違います」  電話はつながらない。カトウはやむなく、また受話器を下ろした。 「ーーかつての日本の最高元首。陸海軍を統帥し、日本人に現人神として崇められ、そして朝鮮人には、支配の象徴として憎まれた人物」 「…それって」 「エンペラー(天皇)ですよ」

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