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第26章⑩

〈ーー新たな未確認機を確認! くりかえす。新たな未確認機が、南東から山形方面へ向かって侵入中ーー〉  最初、黒木は聞き違いかと思った。あるいは、米軍側が鳥の群れか何かを、航空機と誤認したかのかと。  答えは、緊迫した空気にそぐわぬ陽気な声で、もたらされた。 〈失礼ね。こちら、味方機よ。IFF(敵味方識別)にちゃんと、返信してるはずよ。落ち着いて、確認しなさーい〉 〈…あ、確かに。しかし、この空域に航空機が飛ぶという情報は…〉 〈遊覧飛行よ〉 〈は?〉 〈外を見なさい。いい月夜でしょ。月の光に誘われて、突然、夜に飛びたくなる。そんな気分の日があって、おかしくないわよね? ーーというわけで、間違っても高射砲で撃ち落としたりしないでちょうだい〉 〈い、いや、待て。意味が分からない…〉 〈「野に目あり、森に耳あり(※「壁に耳あり、障子に目あり」の英語版)」よ。いいこと、やぼな詮索はしないでくれないかしら?〉  チグハグな受け答えに、ギュルギュルと混線する音が混じる。直後、不明瞭な怒鳴り声が割り込んできた。 〈エイモス・ウィンズロウ大尉!! 貴様、東京を離れて、何をしとるんだ!!!〉 〈……チガイマスヨー。第五航空軍司令官閣下どの。人違いです〉 〈臆面もなく、嘘をつくんじゃない! そのふざけた喋り方をする非常識な人間が、貴様以外にいてたまるか!! 一体、どういうつもりでーー〉  喚く声がしばらく続く。一方、場違いに陽気な声の方は、ぴたりとやんだ。  どうやら、無視を決め込んだらしい。   …黒木は操縦を続けながら、今、飛び込んできた会話について考えた。  ウィンズロウ大尉と呼ばれた男。そいつは、航空機に乗っていて、東京から山形方面へ向かっている。  ちょうど、黒木たちの行く手を阻むように。  それが意味するところは、一つしかなかった。 〈追手のお出ましだぞ〉 黒木は無線で、東に伝えた。 〈事前に打ち合わせた通りだ。姿。ついて来い〉

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