506 / 506

第26章⑪

 首無し花嫁(ヘッドレス・ブライド)号の操縦席で、ウィンズロウは悪しざまに罵った。 「あのダチョウ頭! 余計なこと言うなって、言ってるのに!」  大尉が怒る理由について、カトウはすぐに思い当たった。 「黒木たちが、こちらの無線を聞いている可能性があるんですね」 「そうよ。賢いじゃない、軍曹。少なくとも、脳の血管が切れかけてるうちの司令官より、ずっと頭がいいわ」  ほめられた気はしなかった。 「…作戦中に敵の飛行隊の無線が聞こえたなんて話は、ごまんとあるわ」  ウィンズロウは言った。 「日本の無線機はそんなに高性能じゃないって、言われているけど。ハワイを奇襲した日本の零戦が、地元のラジオの電波を受信した話は残っている。しかも、黒木は英語が理解できるんでしょ。余計にまずいわ…」  ウィンズロウがさらに、愚痴を吐こうとした時である。  無線から、新たな情報が舞い込んできた。 〈ーー佐渡海峡を飛行していた未確認機が消失。二機ともだ。繰り返す。佐渡海峡上を飛んでいた未確認機が、レーダーから消失…ーー〉  ウィンズロウは口を閉ざし、流れ込んでくる地上管制官の声に耳をすました。  十分ほどの間に、他の場所からも報告が入った。そのいずれもが、レーダーの画面上から、黒木たちの乗る航空機が消えたと伝えていた。  ウィンズロウはすぐに、機内にいるアラルドとカトウに、このことを話した。  先に反応したのは、アラルドだった。 「ふん。あっけない幕切れだな」 「どういう意味です?」 「墜落したんだ、軍曹」  無知なカトウに、アラルドが説明した。 「航空機がレーダーで捉えられなくなったということは、レーダーで探知できる範囲から出たか…もう、飛んでいないということだ。複数の地点のレーダーからいきなり消えたのなら、十中八九、墜落と考えていい。操縦を誤ったか、機体に不具合が生じたか、はたまた燃料切れかは分からないが。こちらが手を下すまでもなく、自滅したのさ」  アラルドが安堵の息をつく。気の進まない超過勤務は終わったと、中尉は考えた。  しかしーー。 「そう言い切るのは、まだ早いんじゃない」   ウィンズロウが、不吉な反論をした。 「一時的に、レーダーから消えただけかもしれない」 「おいおい。奴らがいたのは、海の上だぞ。陸上なら、山にさえぎられて、レーダーの電波が届かないことはままあるが。あのあたりの海に、そんなでかい障害物はないぞ」 「そうね。でも思い出して、ローラン」 「ん?」 「戦争末期の沖縄。日本の特攻機パイロットの中には、レーダーをかいくぐって、アメリカ軍の船まで到達することがあったでしょ?」 「…まさか」 「そう。超低空飛行よ」  ウィンズロウが、硬い笑い声をあげる。 「もし、海面スレスレを飛んでいるんだとしたら、レーダーに映らなくてもおかしくない」 「だが、ただでさえ低空を飛ぶのは危険だ。しかも、今は夜だぞ。少しでも操縦をミスったら、海面に即激突する。そんなの、自殺行為だ」 「だとしても、不可能じゃない。まして、相手はあの『狂ったトニー(マッドネス・トニー)』よ。墜落したと見せかけて、こちらの油断を誘って突然、現れるなんて、いかにもやりそうじゃない」  ウィンズロウは言った。 「黒木たちの飛行機の残骸が見つかるまで、飛んでいるものとして対処するわよ」

ともだちにシェアしよう!