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第26章⑳

 狙いすました二発の弾丸が、東の飛燕を貫いた。一発は発動機に命中して修復不能な大穴を開け、もう一発は左翼をうがち、もれた燃料をたちまち燃え上がらせる。  炎と煙を上げながら、飛燕は何秒か持ちこたえた。最期のあがきだ。だが、ついに重力に絡めとられ、力尽きた鳥のように墜ちていった。  その行く先を、カトウが見届けることはなかった。  撃った直後、ウィンズロウが急旋回から横転へ転じたからだ。あまりにも急激な動きだったため、予測していなかったカトウは照準器を据える支柱に頭をぶつけた。  衝撃で目に星が散る。それに混じるように、風防ガラスのすぐ向こうを幾筋かの光が、通り抜けていった。黒木の飛燕から発射された曳光弾だ。  直後、バリバリという不吉な金属音が、カトウの背後で上がった。 〈ーー被弾したかも〉  ウィンズロウが、ありがたくない可能性を告げた。 〈状況報告! 二人とも、無事?〉 〈俺は大丈夫です〉 〈オーケイ。ローラン、あなたは?〉  ウィンズロウの問いかけに、返ってきたのは沈黙だった。 〈ローラン…? ちょっと、ローラン! 聞こえているなら返答してちょうだい。…ローラン・アラルド中尉!!〉  ウィンズロウの声に焦りがにじむ。なおも呼びかけようとした時、突然、風の吹き荒れる音が飛び込んできた。 〈ああ、くそ…!!〉  強風をBGMにして、アラルドが叫んだ。少なくとも、まだ息をしている。  しかし、ウィンズロウたちに告げた事態は、極めて深刻だった。 〈風防ガラスが粉々に吹っ飛んだ! くそ、またかよ…!!〉 〈ローラン。あなた、けがは?〉 〈分からない! …多分、ないと思う……ああ、くそ! 色々、漏らしそうだ。吹きさらしで『トチ狂ったトニー(マッドネス・トニー)』がそこに見えてやがる!! なのに機銃がイカれて全然、反応しない。おい、悪い夢だって言ってくれ!!〉  話すにつれアラルドの声が裏返り、早口がひどくなる。パニックを起こしかけている兆候だ。 〈落ち着きなさい! まずは深呼吸〉  ウィンズロウは、アラルドをなだめた。 〈生き残りたかったら、落ち着いて。あなたは、ワタシの背中についた目なんだから〉 〈もう嫌だ。こういう目に遭うから、お前と飛ぶのは嫌だったんだ…くそ! 今度こそ、おしまいだ〉 〈おしまいじゃないわよ、勝手に終わらせないでちょうだい。そうだ、いいこと思いついたわ。無事に地上に降り立ったら、上等なブランデーを一杯おごってあげる。その後、ベッドでたっぷり可愛がってあげるから〉 〈やかましいわ!! むしろ、ビール瓶でその(くさ)(あたま)を一発、殴らせろ!! その後で棺桶を買って、ぶち込んでやる!!〉  直面している事態から来る恐怖より、時と場をわきまえないウィンズロウへの怒りが上回ったようだ。アラルドは喚いた後、いくぶんか冷静さを取り戻した。  それを見はからって、ウィンズロウが言った。 〈今、トニーとの距離は?〉 〈……大体、三百メートル。目測で〉 〈オーケイ。黒木ほどのパイロットなら、その距離で撃ってくることはないわ。二百を切ったら、教えてちょうだい〉 〈決着をつけるにせよ、尻尾を巻いて逃げるにせよ、早めに決めてくれ。風が冷たくて、凍え死にそうだ〉 〈最大限、努力するわ〉

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