515 / 516
第26章⑳
狙いすました二発の弾丸が、東の飛燕を貫いた。一発は発動機に命中して修復不能な大穴を開け、もう一発は左翼をうがち、もれた燃料をたちまち燃え上がらせる。
炎と煙を上げながら、飛燕は何秒か持ちこたえた。最期のあがきだ。だが、ついに重力に絡めとられ、力尽きた鳥のように墜ちていった。
その行く先を、カトウが見届けることはなかった。
撃った直後、ウィンズロウが急旋回から横転へ転じたからだ。あまりにも急激な動きだったため、予測していなかったカトウは照準器を据える支柱に頭をぶつけた。
衝撃で目に星が散る。それに混じるように、風防ガラスのすぐ向こうを幾筋かの光が、通り抜けていった。黒木の飛燕から発射された曳光弾だ。
直後、バリバリという不吉な金属音が、カトウの背後で上がった。
〈ーー被弾したかも〉
ウィンズロウが、ありがたくない可能性を告げた。
〈状況報告! 二人とも、無事?〉
〈俺は大丈夫です〉
〈オーケイ。ローラン、あなたは?〉
ウィンズロウの問いかけに、返ってきたのは沈黙だった。
〈ローラン…? ちょっと、ローラン! 聞こえているなら返答してちょうだい。…ローラン・アラルド中尉!!〉
ウィンズロウの声に焦りがにじむ。なおも呼びかけようとした時、突然、風の吹き荒れる音が飛び込んできた。
〈ああ、くそ…!!〉
強風をBGMにして、アラルドが叫んだ。少なくとも、まだ息をしている。
しかし、ウィンズロウたちに告げた事態は、極めて深刻だった。
〈風防ガラスが粉々に吹っ飛んだ! くそ、またかよ…!!〉
〈ローラン。あなた、けがは?〉
〈分からない! …多分、ないと思う……ああ、くそ! 色々、漏らしそうだ。吹きさらしで『トチ狂ったトニー 』がそこに見えてやがる!! なのに機銃がイカれて全然、反応しない。おい、悪い夢だって言ってくれ!!〉
話すにつれアラルドの声が裏返り、早口がひどくなる。パニックを起こしかけている兆候だ。
〈落ち着きなさい! まずは深呼吸〉
ウィンズロウは、アラルドをなだめた。
〈生き残りたかったら、落ち着いて。あなたは、ワタシの背中についた目なんだから〉
〈もう嫌だ。こういう目に遭うから、お前と飛ぶのは嫌だったんだ…くそ! 今度こそ、おしまいだ〉
〈おしまいじゃないわよ、勝手に終わらせないでちょうだい。そうだ、いいこと思いついたわ。無事に地上に降り立ったら、上等なブランデーを一杯おごってあげる。その後、ベッドでたっぷり可愛がってあげるから〉
〈やかましいわ!! むしろ、ビール瓶でその腐 れ頭 を一発、殴らせろ!! その後で棺桶を買って、ぶち込んでやる!!〉
直面している事態から来る恐怖より、時と場をわきまえないウィンズロウへの怒りが上回ったようだ。アラルドは喚いた後、いくぶんか冷静さを取り戻した。
それを見はからって、ウィンズロウが言った。
〈今、トニーとの距離は?〉
〈……大体、三百メートル。目測で〉
〈オーケイ。黒木ほどのパイロットなら、その距離で撃ってくることはないわ。二百を切ったら、教えてちょうだい〉
〈決着をつけるにせよ、尻尾を巻いて逃げるにせよ、早めに決めてくれ。風が冷たくて、凍え死にそうだ〉
〈最大限、努力するわ〉
ともだちにシェアしよう!

