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第26章㉑

 ウィンズロウはそう言ったものの、まったく予断を許さない状況だった。  敵二機のうち、一機を撃墜したものの、もう一機がーー黒木の操縦する飛燕が、後方から追撃してきている。先刻まで、旋回式の機銃で威圧し接近をはばめたが、今やそれが使えなくなった。電気系統を損傷したらしく、ウィンズロウのいる操縦席側で動かそうと試みても、反応しない。  黒木は旋回式機銃からの攻撃を警戒しているようっで、いまだ近づいてこない。しかし、いつまでも隠し通せるものではない。  背後に近づいても撃たれないとバレたら。あるいは損害覚悟で切り込んでこられたらーー。 防ぐすべはない。 ーーローランの言う通りね。  早々に勝負を決める。それが最善の選択だ。ただし、再び黒木の背後をとるチャンス自体、そうやすやすと巡ってきそうになかった。 〈ーー大尉。聞きたいことがあります〉  カトウの声を聞いて、ウィンズロウは困ったように唸った。 〈おチビさん。あなたも知っての通り、悪いけど今、たてこんでるところなんだけど…〉 〈先ほど、「三百メートルも離れていたら黒木は撃ってこない」と言いましたけど。それ、本当ですか?〉    ウィンズロウは不審に思いながらも答えた。 〈ええ、撃たないわよ。それだけ距離があったら、たとえ狙ってもまず当たらないから。経験を積んだパイロットなら、なおさら確実に当たる射程に相手を捉えるまで、射撃ボタンは押さないわ〉 〈具体的には、どれくらいです?〉 〈大体、百メートル。それ以下になったら撃ってくるわ。ワタシなら、そうする〉 〈それならーー〉  カトウは一つの提案をした。聞いたウィンズロウは耳を疑った。  皮肉なことに、地上において散々、振り回されてきた男を、カトウは空中において、初めて絶句させることに成功した。 〈…カトウ軍曹。あなた、自分がどれだけ無茶苦茶なこと言ってるか、理解してる?〉 〈無理ですか?〉 〈無理じゃなくて、無茶だって言ってるの! 非常識すぎて、航空教本にだって書かないレベルよ……まったく、もう!!〉  ウィンズロウは、反論を途中でやめた。もめても得るものはなく、時間が無駄に消費されるだけだ。必要なのは、カトウの提案に乗るか、否かの決断することだ。  そして大尉は腹をくくった。 〈こんな非常識な飛び方をするのは、最初で最後よ。二回目はないから、そのつもりで構えなさい!〉

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