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第26章㉒
同じ頃、「首無し花嫁 」号を追いかける黒木の心は、奇妙なねじれを起こしていた。東が撃墜された。そのことで、漆黒の敵機に対する殺意は、さらに深まった。
けれども、その一方でーー墜落していく飛燕から影が飛び出し、白い落下傘が開いた時は、正直に「よかった」と思った。
己の復讐に、大勢の者を巻き込んだ。死出の旅路の道連れに、東を引きずり込んだ。だが結局、憎むべきアメリカ兵の手で、東はそこから強制的にはじき出された。
皮肉にも、カトウたちは意図せず、黒木の心残りを一つ減らしたのだった。
そして、ウィンズロウと同じく、黒木も早々に決着をつけなければと考えていた。
増槽をつけ、九州の南から岩手まで千数百キロの距離を飛んできた。燃料計の数値は、この空戦をあと五分も続けられないことを示している。
飛行眼鏡の下で、黒木は目をすがめる。
P-61の上部につけられた旋回式の機銃は、少し前から沈黙している。
距離が離れているから、撃ってこないのか。あるいはーー撃てなくなったか。
機関銃が不具合を起こして作動しなくなった、あるいは銃手を務める人間が先ほどの射撃で負傷するか、死亡したかーー。
黒木の判断が、敵機への接近に傾きかけた時だ。聞き覚えのある声が、飛び込んできた。
〈地上にいるアメリカ陸軍兵士の皆さーん!!〉
背後から戦闘機に追い回されているというのに、そんなことを一切感じさせない陽気な口調。エイモス・ウィンズロウ大尉は、無線を聞いているであろうすべての人間に向かって、呼びかけた。
〈今から超低空を飛ぶんで。機関銃もしくは迫撃砲を持っていたら、トニー の撃墜にご協力願いまーす!!〉
言い終えるや否や、ウィンズロウは機体を横転させた。そのまま上下逆さまになり、一気に高度を落としていく。
追おうとした黒木は、とっさの判断で踏みとどまった。
ーーどういうつもりだ?
窮地に立たされ、本当に地上にいる味方に援護を求めたのか。あり得る。エンペラー が監禁されている現場とその周辺には、警官やアメリカ軍兵士たちがつめかけているはずだ。立てこもった蓮田や松岡らを排除するために、威力と殺傷力を兼ね備えた武器が持ち込まれていて、おかしくない。
だが、もっともらしい理屈を並べても、黒木は納得できなかった。
積み重ねてきた先頭の経験が、くぐり抜けてきた死線の数が、「そうではない」と声なき声で叫んでいる。
ーーやつの狙いは別にある。
しかしそれが何であるかまでは、にわかに分からない。
今まで戦ってきた相手と比べて、あのP-61は明らかに異質だ。
そして、その直感は当たっていた。
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