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第26章㉕
黒木とその乗機である「飛燕」の最後は、地上にいる人間たちにも目撃された。
旅館から一連の戦闘を見ていた「やまと新聞」の関係者は、しばらく声もなく、根が生えたようにその場から動けなかった。そんな中、最初に行動にうつったのは佐野であった。
「行くで」
「行くって、どこへ…?」
「そんなん、決まってるわ。墜落現場や」
佐野は枕元にあったヨレヨレのシャツをまとい、ネクタイを締める。
「ぼくらは記者やろ。何が起こったのかを、いち早く国民に伝えるんが仕事や」
確信のこもった言葉に、ショックを受けていた他の記者たちも、思い出したようだ。
自分達の職務が何であるかを。さらに、これが大きなスクープになると予感した。
「そうだ、大仕事になるぞ。宮城の支社に電話して、応援を呼ぼう」
「飛燕は二機いて、両方落ちた。現場は別々だ。それぞれにカメラマンを同行させないと…」
「それから、飛燕を落とした黒い航空機についても、進駐軍に問い合わせないかんなーー」
静から動へ。観衆から伝達者へ。
彼らは、すばやく自分たちの立場を切り替えた。
…死出の旅に向かう者もいれば、まだこの世にとどまる者もいる。
黒木の飛燕が墜ちた場所から、数キロ離れた山中。一本のケヤキの根元に、白い絹製の落下傘が広がっている。それに繋がれたまま、一人の青年があおむけの状態で空を仰いでいた。
表情のない、魂の抜けたような顔。それが次の瞬間、くしゃくしゃにゆがんだ。
飛行手袋をつけたままの両手で、東 は顔を覆った。
声を伴わない唇の動きだけで、らちもない泣き言を並べる。
「……とっくの昔に、死んだってのに。死んでまで、おせっかいやきかよ。大嫌いだよ、あんた」
ずっと死ぬ気でいた。黒木の僚機として同行することが決まった時からずっと、今日を命日と思い定めていた。
だから出発の直前、黒木が落下傘を持ってきてつけるよう命じた時も、しぶしぶ従ったものの、使うつもりは微塵もなかった。
P-61に撃たれた時、東は落下傘を使っても間に合わないくらい低空を飛んでいた。じたばたせず、飛燕と運命を共にする覚悟だった。
だが、その直後ーーあの日と同じだ。
あの叫び声が、無線から聞こえた。
〈ーー落下傘で脱出しろ!! 東――!!!!〉
笠倉孝曹長の声だった。
東は命じられるまま、機外へ脱出した。それが自分の意志だったのか、はたまた笠倉の意思だったかはわからない。
不十分な高度にも関わらず、茂ったケヤキの葉が緩衝材となり、東は骨も折らずに生還した。
生き延びてしまったことに、責任をとってくれと言いたかった。
だが万に一つ、笠倉の幽霊が存在していて、かつての乗機に取り憑いていたのだとしても、再び東に、ちょっかいをかけてくることはないだろう。
笠倉が多摩川に着水させたあの機体は、盛岡郊外の山中に墜落して最期を迎えた。笠倉との間にあったつながりは、失われてしまった。
それともーー死のうとするたびに、あの男は止めに来るのだろうか。わからない。
ただ言えるのは、自分は呪われたということだ。
あの、どんな状況でも生還を諦めなかった男に呪われて、死ぬ気が失せた。
東は己のちっぽけな人生に向き合って、自分で責任を取らねばならなかった。
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