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余話③
「私は、岩手で航空機が墜落した事件を調べています」
佐野が手紙で取材を申し込んできた当初、今村は返事も出さずに無視していた。
すると年が明けた一月のある日曜日。佐野は断りもなく、今村の家へやってきた。
その頃、今村はすでに父親の伝手 で、役所の臨時の事務員の職を得ていた。年度が変われば、そのまま正式に採用される予定だった。
家に上がりこんだ佐野は、自らの調査で判明したことを今村に語った。そこで今村は初めて、黒木が小脇と河内を殺害しただけでなく、「はなどり隊」の松岡や柴田、さらに「らいちょう隊」の蓮田を巻き込んで、エンペラー を標的としたテロ事件を実行したらしいことを知った。
佐野は、事件直後にアメリカ軍に拘束された今村も、何らかの形で関わったのではと、にらんでいた。仮にそうでなくても、「はなどり隊」の飛行兵たちのことをもっともよく知る人間だ。取材しないという選択肢はなかった。
一方の今村は、気持ちの整理が追いつかない。居座って、中々、動こうとしない新聞記者をうとましく思い、とにかく消えてくれと願った。
その時、押し入れにしまい込んだ原稿用紙の存在を思い出した。
今村は紙の束を引っ張り出してきて、佐野の前に置いた。
「その小説を読んで、どう思ったか感想をください。話をするかは、その時に決めます」
佐野はやや困惑した様子だったが、ここは譲歩すべきと考えた。ため息をついて了承し、風呂敷に原稿を丁寧に包み込んで辞去する。
今村としては、そのまま持ち逃げしてくれて一向に構わなかった。むしろ佐野がこれを最後に連絡を絶やしてくれた方がいいとさえ、思った。
ところが次の日の朝。今村が家を出ると、すぐ近くの曲がり角のところで、佐野が待ちかまえていた。少なくとも一時間以上、そこにいたことは足元に散らばる吸い殻の数から、明らかだった。
めんくらう今村に、佐野は言った。
「正直、暗すぎる話で、ぼくはあんまり好きにはなれませんでした」
小説の感想を言っているのだと、今村は遅れて気づく。
「でも、主人公には共感できました。あの腹を切らされた侍は、特攻隊員に選ばれたあなた自身がモデルですか?」
佐野の洞察力の鋭さに、今村は驚いた。同時に「話は好きでない」と言った正直さに、好感を覚えた。
「モデルは、俺だけじゃないです。俺の他にも…ーー」
今村は昨日、知り合ったばかりの新聞記者に少しだけ心の内を明かした。
社命で大阪に出張していた佐野は、三日後には再び東京へ戻る予定だった。その前に、今村は再度、取材を受けることを了承した。
バス停で別れる時、佐野が今村に言った。
「あなたの小説。今度、うちの社がやる短編小説の賞に出してみる気はないですか? ぼくはええ線、行くと思いますよ」
佐野の洞察力はここでも発揮された。今村の書いた暗く救いのない侍の話は、第二等をとり、「やまと新聞」系列の雑誌に載った。
一部の作家と批評家に激賞されたその作品で、今村は作家人生の第一歩を踏み出すことになる…。
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