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第3話
男同士でのセックスの方法など知らない。
まず、同性でセックスをしたいと思わないから、知らなくて当然だと思う。
夏樹が帰った後、シーツを替えつつ考えていた。彼はいつも私のことを考えながら自慰しているのか? 匂いで勃つ程度には何か想われているんだと思う。酔っていたが冗談でも「セックスしたい」と言うか? 冗談ではなさそうだった。今朝も否定しなかった。それどころか、私の目の前で自慰するくらいだ。本気なら、きちんと応えてやりたい。夏樹を嫌う理由は無い。とりあえず「セックスしたい」と言うんだから、やり方を調べてみるか。インターネットで調べれば、だいたいわかるだろ。
「なんか、色々出てきたな……」
想像よりも情報量が多い。『男同士・セックス・やり方』で検索したのが間違いか? 『初めて』も追加してみるか。なんとなく絞り込めた気がする。前準備が多いな。肛門に突っ込むのか……。それなら、女と違って、本来モノが入るとこではないものな。ヘッドスペースに目をやる。記事で紹介されているものだと、この部屋には……コンドームしかないな。アナルセックスに必要な物が足りない。買いに行くか。今日はオフだから、ちょうどいい。こういうものが売っている店は……。雑貨屋か? ごちゃごちゃした本屋か? 繁華街に出れば、アダルトグッズの専門店があるはずだ。スタッフに知識があるほうが良い。どうせ、見てもどれが何だかわからないんだ。
店の場所がわかったので、夏樹から届いていたメッセージに目を通す。
昨夜家に上がり込んだことについてのお詫びと今朝のことが書かれていた。本気だってことが記されている。返信は後にするか。上手い文面が思いつかない。夏樹はきちんと「待て」ができる犬のようなものだから、しばらく待たせておこう。二度寝するだろうし。まずは、店に行ってみるか。
ナビに従ってバイクを走らせる。目的地近辺の駐車場にバイクを預けて、賑わう街を歩く。
繁華街にそういう専門店があることは、なんとなく記憶していた。
目的の黒い看板の店を見つけて、中に入る。女性モノのキラキラした下着が目についた。透けているし、ほとんど見えているから下着の意味あるのか? 肌触りが良いが、別にこれに用はない。
とりあえず、ローションが必要だったはずだ。
「……種類が多いな」
何がなんだかわからない。成分と内容量の違いか? 少ないより多いほうが良さそうではあるが……、大容量お得パックはさすがに……やる気満々だと思われそうで嫌だな……。
「お客様。何かお探しでしょうか?」
私が棚の前から動かないからか、店員が話しかけてきた。こういうのは聞いたほうが早い。
「アナルセックス用のローションはどれですか?」
「ああ! それでしたら、こちらのシリコンタイプがおすすめですよ! 失礼ですがお客様、初めてされるので?」
「はい。したいって……言われたので……」
「ズバリお聞きしますが、お客様はタチですか? ネコですか?」
タチ? ネコ? 何の話だ? どうして急に動物の話になったんだ? 滑舌が悪いからタカがタチになったのか? イヌとネコではなくて、タカとネコとはまた極端な質問だ。
「ネコが好きです」
「あらぁあ! それなら、他にもオススメ商品があるんですよぉ!」
店員のテンションが上がったような気がする。嬉しそうにしている。まあ、こんな店だから、客と話す機会も少ないだろうし、話せて嬉しいのかもしれない。
「アナルは普段は出るところですので、入れることに慣らしてあげると、パートナーさんとの営みも楽になりますよぉ!」
「はぁ……」
「これは、アナル拡張のためのプラグです」
よくわからないが説明してくれるようだから、素直に聞いておこう。後々必要になるものなら、買っておけば良い。買い物かごに店員のオススメ品が増えていく。
「個人的な質問になっちゃいますが、パートナーさんは、どんな方ですか?」
「人懐こい犬っぽいようなやつです。いつも尻尾を振っているように見えますね……」
「あらぁ、かわいぃいい!」
「あと、ドMだと思います。目の前で自慰してイクぐらいなんで」
「もう! 惚気 ないでくださいよぉ!」
惚気? よくわからないな。
「こういう、Mちゃん用の首輪やハーネスもあるんで、いかがですか? お散歩プレイできますよぉ」
「このハーネス可愛いですね」
「でしょー! 人気商品なんですよ!」
「じゃあ、これもください」
なんだか思ったよりも大量に買ってしまった。『ネコちゃん用はじめてのアナルセックス』と書かれたテキストまでつけてくれた。わかりやすくて気が利く店だな。また来るか。
バイクに乗って、家に帰り、部屋に荷物をひろげる。
ローション、アナルプラグ、コンドーム、ハーネス、浣腸、シリンジ、おまけのテキスト。
ネコちゃん用の意味はよくわからないが……タカより、ネコが好きだな。ゴムは部屋にあるものと素材が違う。よくわからないが、それ用ってのがきちんとあるってことか。少し腹が減ってきたが、まだ昼飯を食べるには早い。テキスト通りにしてみるか。まずは……浣腸しろ?
「……まあ、汚れるものな」
当然と言えば当然だな。尻なんだから、出るものは出る。便意を極限まで我慢してから、か。トイレでしないと無理だな。ベッドを汚してしまう。
次はシリンジで人肌の温度のお湯を尻に入れる。これはトイレだと無理だな。風呂に行こう。二、三回繰り返して水が透明になったら大丈夫……。腹がすっきりしたような気がする。腹の虫が鳴いている。
何故だかわからないが軽く勃起している。興奮状態のほうが良いと書いてあるから、扱きつつ、部屋に戻る。ベッドはシーツを替えたばかりだから、ソファにしよう。
ソファにバスタオルを敷き、寝転ぶ。ローションは思ったよりドロドロしていた。気持ち良い。
棹を扱きつつ、アナルの表面にローションを塗る。なんだか、むず痒い。変な感じがする。表面を撫で回す。息があがる。痺れが這いあがってくる。
自分でしてこんなことになるのに、夏樹に触られたらどうなるんだ? 想像して、ゾッとする。たぶん、ほぐれてきた。やわらかくなったので、ローションを足して、指をゆっくり中に挿してみる。
「っ!」
変な、感じだ。第一関節まで入るのがやっとか。テキストにも「何度か繰り返して徐々に慣らしてね」と書いてあるから、何度も慣らしていくものなんだと思う。男同士だと準備が多くて大変だな……。
腹が減った。続きはまた今度にしよう。指が楽に根元まで入るようになったら、中をほぐして……それからアナルプラグを入れるらしい。一週間はかかるか? もっとか? 慣れたら短いのか? 「傷つけないよう注意しながらプレイすること」と書かれている。これで病院は恥ずかしい。
そういえば、夏樹はドクターだから、治療できるか? こういうこともわかるかもしれない。それなら、私が調べなくても、はじめからあいつに聞けば良かった。まあ、良いか。
それより、腹が減った。何か食べるかな。
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