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第15話
夏樹を連れて更衣室に来た。カギは一応かけておくか。
「小焼。ここ、誰も来ないんだよな?」
「来ないとは断言できないですね。二コマ目の実習で使うはずですから」
自分のロッカーを開き、ジャージとバスタオルを取り出し、夏樹に投げた。顔面で受け止めていたが、まあ、仕方ないか。
「いきなり投げんなよ!」
「お前が運動神経無いだけです」
「ンなことねぇよ……」
眉をしょんぼり八の字に下げている。無いはずの犬の耳が垂れているように幻視した。ジャージとタオルを持ったまま何もせずに突っ立っている。
「着替えずにずぶ濡れのままいるんですか? 変態」
「貸してくれるんならそう言ってくれよ! 荷物持ちかと思ったぞ!」
下着の予備は持っていないから、ノーパンになってしまうが、スカートではないから問題無いはずだ。夏樹は着ている物を全て脱いで体を拭いている。……こいつ、また、反応してるな。
「夏樹。お前の宝剣が抜けそうになってますよ」
「だって、小焼がご褒美くれるって言うから……、期待してるんだ。このタオルも小焼の匂いがいっぱいするから、どうしよう。おれのロンゴミニアドが――」
「アーサー王に謝れ」
エクスカリバーだとかロンゴミニアドだとか、夏樹が『アーサー王物語』を好きなのか、それしかわからないのかどっちだか知らないが、アーサー王に謝るべきだ。
「あと、私は『宝剣』と言ってるんだから、剣で返せ。せめてクラレントにしろ」
「ダメ出しが厳しすぎねぇかなぁ……」
「と、言いつつもお前の下半身は元気そうですが」
「ひぃあっ!」
タオルの匂いだけで勃つって、本当にどうなってるんだこいつ。手で扱いてやったら、優し気に垂れた大きな目に涙が浮かんでいる。いつもの童顔に妙に危なっかしい色気を感じた。
フェラでもしてやるか。夏樹ができるんだから、私にもできるはずだ。ベンチに座らせて足の間に座る。口に含めば良いんだろ。これくらいならできる。
「ちょちょちょっ、小焼! タンマ!」
「何ですか?」
「おれ、フェラよりパイズリが好きなんだ。やるなら、パイズリしてくれ」
「……は?」
「だめ、か?」
人懐こい犬のような瞳で尋ねられる。不覚にも少し可愛いと思ってしまった。衛生的に口に入れるより胸で擦るほうが良いか。私も変なところで腹を壊したくない。
しかしながら、パイズリというと……些か無茶があるような……。
「っ、はぁ……、んっ、すごい、小焼のおっぱいきもちい」
「そりゃ良かったですね……」
エロ動画の真似をしてるだけなんだが、これで合っているのか? 夏樹が喜んでいるし、興奮しているようだから、良いか。夏樹が自主的に腰を揺らし始めたので、任せてみることにした。徐々に夏樹の――今日はロンゴミニアドか。熱く、硬くなっていく。彼は小さく喘いでいるんだが、私を呼んでいるので、微妙な気分だ。腹の奥がむず痒い。腰が疼く。
……ここには、ローションもゴムも無い。おまけに洗浄もしていないから、求めてはいけない。更に、二コマ目はこのプールを使うはずだ。必ず人が来る。
「あッ! 出る!」
考えている間に、白濁が散った。私の胸にぶっかけて、夏樹は荒い息を吐いている。まだ熱は冷めないようだ。この精力絶倫なところはどうなってんだか……。彼は自分の手で自身を扱いている。
「小焼。おれのイクとこ、見ててくれ」
「恥ずかしいって言ってませんでしたっけ?」
「見ててもらえたら嬉しいっ!」
「……わかりました。見ててあげますよ、変態」
雄のにおいが充満する。次の実習までに換気が終わるだろうか……。内側からカギをかけてぶっ壊す手もあるが……、器物損壊になるな。バレたら面倒だ。よくわからない裏サイトのこともあるから、騒ぎを起こすことはやめよう。
「出る! も……、っ出る! 出るぅッ!」
私の顔にかけることは許可してないんだが。……で、わかっていたが、まだ満足してなさそうだな。
「自分ばかり良くならないでください」
「わりぃわりぃ! 小焼も気持ち良くなろ?」
そういや、先月レンタルした作品で似たようなセリフを聞いた。
『奇跡の色白美少女◯校生・巴乃(ともえの)メイちゃん〜ちょびヒゲつるつる盛りマ◯コ、敏感すぎて困っちゃうなの!〜』とかふざけたタイトルだったのに、内容はなかなか良かった。アンケートの回答を送ったら、女優のサイン色紙が当選した。まだ額を買えてないから部屋に飾れてないんだった。見ておかないと。
「小焼?」
「ああ、すみません。巴乃メイについて考えてました」
「おまえの好きなロリ女優だっけ? そういや、握手会やるってポスター見たぞ」
「何処でですか?」
「何処だったかな……。後で調べとくよ。新作予約してんなら握手会参加できるんじゃねぇか?」
「なんなら、写真集も予約しています。もうすぐ発売ですよ」
「めちゃくちゃハマってんじゃねぇか! で、それは今良いんだってば……。ほら、交代!」
夏樹は全裸のままだが、良いんだろうか。首輪を持ってきたら良かった。今度はセーフティ機能が無いやつを買おう。犬用にするか。ベンチに座って水着を脱ぐ。床に座った夏樹が足の間に入る。
「半勃ちだな? パイズリして興奮したか?」
「どちらかというと巴乃メイを思い出して……」
「……まあ、おまえはそういうやつだよなぁ!」
夏樹はニカッと笑いながら、私自身をゆるゆる揉み始める。ゆるい刺激が心地良い。吐息に熱が混ざる。夏樹の頭を撫でてやる。嬉しそうだ。
「ん。気持ち良いか?」
「きもちい、です」
「よしよし。もっと気持ち良くしてやっからな!」
完全に勃起したところで、口に含まれる。夏樹は「んーんー」言いながら喉奥まで咥え込んでいた。
裏筋を舌で撫でられる度に、痺れが這い上がってくる。亀頭を喉で締め付けられるのが気持ち良い。
「ぃ、ック……!」
「んっ! げほっ、ンッ」
そのまま頭を掴んで喉奥に放った。夏樹は涙目で鼻を摘み、咳きこんでいる。吐いていないから、飲んだのか?
「いったぁ、鼻に入った……」
「飲んだんですか?」
「おう。ごふっ、ん」
夏樹は口を開く。舌の上に微かに私の出した欲が残っていた。今少し吐いたものだと思う。
何故だか腹がさみしい。……欲しい。何かはわからない。でも、欲しい。
夏樹の頬を撫でて唇を重ねる。舌を挿し、奥に逃げる舌を吸って絡める。なんとも言えない味がする。苦味と微かな甘味。深く口付けたまま、乳首を摘んでやる。わかりやすく体が跳ねた。
「ァッ、あぁ! 小焼ぇ、乳首は駄目だって」
「気持ち良いんでしょう?」
「きもちいけど、これ、クセになるからぁ!」
もうなってるだろ。本日もよく引き抜かれるエクスカリバー……、もとい今日はロンゴミニアドか。
ロンゴミニアドは幅広で長い穂先を持ち、一撃で五百人の兵士を吹き飛ばす槍のはずなんだが、夏樹はわかって言っていないはずだ。一回の射精で、五百匹以上の精子は出ているとは思うが。
……まさか、そういう意味か?
「夏樹。一回の射精で精子は何百匹放出されるんですか?」
「へ? 百なんて桁が違うぞ。だいたい、一億から四億匹が出て行く。そんでも、卵子の周囲まで近づけるのは、わずか百匹ほどだな」
「ロンゴミニアド……」
「おう! おれのロンゴミニアドは、まだ元気だぞ! モードレッドにも勝てる!」
全くロンゴミニアドに関係無かった。ちょっと上手く言ったのかと思った私が愚かだった……。夏樹のロンゴミニアド、もとい性器は元気なままだ。何回出せば気が済むんだろうか。
腹が減った。欲しい。……これが、欲しい。
「小焼。どうかしたか?」
「……っ、なんでも、ない」
駄目だ。もうすぐ一コマ目後の休憩時間になる。ここには人が来る。私も、次はイギリス文学史の講義――どんな気分で受ければ良いんだ。やましいことしか出てこなくなる。「エクスカリバー」だけで腹筋が攣りそうなくらいだ。ご褒美を与え過ぎた。もう必要無い。
放置されたバスタオルで体を拭き、服を着る。夏樹が全裸で正座していた。
「服、着ないんですか? さすがに校内を全裸で散歩したら捕まりますよ」
「タオルを待ってたんだよ!」
そういえば、中途半端に拭いたままだった。タオルを貸してやる。勃起したまま他人のジャージをはくことに何も思わないのか……。
「今日はチン冷却しないんですか?」
「んー……、してもさ、これ、小焼の服だろ? 匂いで勃つから無意味だ!」
「変態」
「し、仕方ねぇだろ! 好きなんだから!」
何故夏樹は私のことがそんなに好きなんだろうか。嫌われてるよりかは良いんだが、理由がわからない。「好き」という感情に理由や意味を求めるのも愚かだったな。哲学になりそうだからやめよう。
ダボダボのジャージで擦りついてきたので、とりあえず頭を撫でておく。元気良く尻尾を振ってそうだ。無いはずなんだが、そう見えてしまう。あ、犬で思い出した。
「母がお前の服をデザインしたそうなんで、数日したら国際郵便で届くと思います」
「あー……いつものな。わかったよ」
「よろしくお願いしますね、なちゅちゃん」
「ッ、すっげーゾクゾクした。わりぃ、ジャージ汚した」
「…………変態」
「だ、だって、仕方ねぇだろ!」
触ってもないのに吐精しないでほしい。しかも私のジャージだ。着て三分も経ってない。
時計を見る。そろそろ教室に移動しないと。
「では、私は講義がありますんで」
「おう! 何の講義だ?」
「イギリス文学史です」
「エクスカリバーだな!」
「……頭痛くなってきた」
「大丈夫か⁉ 偏頭痛か? それとも緊張性の頭痛か? どの辺が痛いとかあるか?」
「大丈夫なんで、そっとしといてください」
「ん。わかった!」
夏樹は人懐こい犬のような笑みを浮かべる。頭を撫でておこう。更に擦り付いてくる。
「へへっ、頭撫でられるの好きだ」
「そう言いながら宝剣を押し付けてくるな」
「おっ、わりぃ! 無意識だった」
「そのうち、満員電車で痴漢扱いされそうですね」
「おれ、痴漢モノはあんまり見ないんだよなぁ。痴女モノは好きだけど。おっぱい押し付けてくるやつとか最高だ!」
「はいはい。わかりました」
永遠に話してそうだから、行こう。カギを解き、ドアを開く。左右を見る。誰もいない。いたら困る。
後ろから「置いてくなよ!」と声が聞こえる。お前は学部も学年も違うから講義内容も違うだろ。とは思うが、相手するとまだついてくるだろうから無視を決めた。
スマホを見る。仮の彼女からメッセージが届いていた。
舞台脚本の資料として、一日だけでも良いから、水泳部のコーチをして欲しいらしい。これは、水泳部からのお願いでもあるとか……。バイト先に呼ぶか。温水プールを借りるような学校なら、手間が省ける。日時が決まったら連絡するように返事をした。
「夏樹。女子高生の競泳水着姿に興味無いですか?」
「犯罪臭のする言い方はやめろよ!」
「……私は好きです」
「おまえの性癖を急に語られても反応に困っからな! あと、メイちゃんの握手会の場所調べておいたからアドレス送っとく」
「ありがとうございます」
「……おう。こんなところでおまえの笑顔見るとすごい複雑な気分になるよ」
夏樹は溜息を吐きながら、頰を掻いていた。
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