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第20話
気になって電話して良かった。何であんなことになってんだよもう! すっげぇエロかった。
生でシて良いって言われても我慢したおれ偉い! はち切れそうなくらいになってんだけど、小焼に無理させたくねぇし、ここでシたらクセになりそうだし……、我慢したおれ、天才だな。
床をペーパーで拭いて、そんまま流しておいた。あいつ、舐めて掃除させようとしてたよな……。どんな思考回路してんだか。
ついでに一発ヌいといて、講義へ向かう。一番後ろの席にそれとなく座って、それとなく時間を過ごした。
慎吾に代わりに出席票を書いてもらってても良かったなぁ、とか今更ながら思う。おれがいなかった数十分ほどのノートは後で見せてもらおっと。
次は休講になってたから、もう帰るかな……。ゼミ室に教科書置きに戻るか。
「お! 夕顔の彼女じゃんかー!」
「ヒューヒュー! 彼ジャージかわいいなー!」
あー、やっぱりそうなってんのか。
中学生のように囃し立ててくるのは少しイラッとくる。テキトーに、笑って、手を振っておけば黙るから良いや。
「おいおい。夕顔と伊織は真剣にオツキアイしてんだから、からかうな。ちんこのお突き合い」
「ひー! 上手く言うなよー!」
「あはははははは!」
小焼なら殴ってそうだな。うん、殴ってる。絶対殴ってる。おれで命拾いしたな! 何にも言い返せないのが悔しいし、なんか涙出てきた。小焼に害が無けりゃ良いけど、これはこれで、つらい。
ゼミ室に向かって走る。後ろから笑い声がする。
仕方ないだろ! 好きなんだから!
ダメだ。めちゃくちゃ苦しい。少し離れた花壇の前に座り込む。
あーもう、どうしよう。動けなくなった。落ち着け。落ち着け。大丈夫。おれは大丈夫。おれは超スペシャルハイパーウルトラデラックススポーツドクターだ。大丈夫。大丈夫。
「っ、ふぇ、ひっく……」
涙が止まらない。足に力が入らない。ゼミ室に戻りたいし、さっさと家に帰りたい。なのに、動けない。呼吸が乱れてる。やばいこれ、過呼吸だ。落ち着けおれ、大丈夫。大丈夫だから、落ち着け。落ち着け。
「あんた大丈夫かい!?」
女の声がした。4コマ目が始まってそうなのに、花壇をうろついてるって、どんなやつだ。
喋れない。息が上手くできない。おれ、医者なのに、何してんだろ。
「過呼吸か! えっと……吸って、吐いて、吐いて。ほら、あたいの声に合わせて! ゆっくりだよ。吸ってー、吐いてー、吐いてー」
そりゃおれも過呼吸の対処法知ってる。けど、自分がなると抜け落ちるもんだ。
ようやく落ち着いてきた。涙を拭って顔をあげる。
思わず乳に目がいった。豊かなおっぱいだ。
「落ち着いたかい?」
「ん。ありがと。えっと、あんたは、医学部なのか?」
「いいや。あたいは短大の看護学部だよ」
「へえ。そっかぁ」
看護師目指してんのかぁ……。おっぱいすげぇたゆんたゆんだな……。小焼よりは……小さいか? いや、あいつ、男なのにFカップあるもんな。この感じだと、目の前の子はEかな……。
「乳ばっか見てんじゃないよ!」
「ぁ痛っ! ごめん!」
初対面の女子に頭ぶっ叩かれた。どうやらかなり気が強い子のようだ。
セミロングの髪にゆるくウェーブがかかってる。前髪は、シースルーバングってやつかな。ふゆが読んでたファッション誌で見た気がする。ブリーチしてんのかエクステなのかわかんねぇけど、ハイライトカラーだっけな? 金のメッシュだ。つけまつげバッサバサで、ヘソ出しのミニTシャツに、ミニ丈のジーンズ。
え、超ギャルなんだけど、この子、本当に看護学部? と疑いたくなるくらいに遊んでそうに見える。右目の下のホクロがセクシーだなぁ。
「で、あんた何で泣いてんの?」
「ま、まあ、ちょっと色々あってさぁ……」
「ふぅん。……なーんか、見覚えあるんだけど、あたいとどっかで会ったことないかい?」
「えー? うーん……。初対面かな。おれ、こんなに巨乳の美人黒ギャルだったら覚えてると思う」
「……は?」
「と、とりあえず! ありがとな! 助かったよ!」
「ちょっと待ちな!」
「ぐぇっ!」
立ち上がって、駆け出そうとしたら、カバンを掴まれて首が締まった。ショルダーバッグでも首吊りになるから注意が必要だな。痛い。
「思い出した! あんた、あたいの妹の元カレだ! 伊織夏樹だろ!?」
「確かにおれは伊織夏樹だけど、妹って?」
「あたいは、五十鈴はる! 五十鈴 光 の姉だよ! 覚えときな!」
「あ、ハイ……」
どうしよう。ヤンキーのギャルに絡まれてる。
元カノの姉ちゃんに絡まれるってどんな不幸だ。おれ、厄日なのかな。朝から散々な目にしかあってねぇや。
今すぐ家に帰りたい。あ、なんだか気持ち悪くなってきた。吐きそう。いや、吐く。これは吐く。
「げほっ、けほっ……!」
「大丈夫かい!? えっと、急な嘔吐の時はどうするんだっけ、えっと……、頭打ったとかないかい?」
「大丈夫。大丈夫だから」
……根はめちゃくちゃ真面目で良い子そうだ。
あー、昼に食べたオムライスと感動の再会だ。エビの尻尾はまだ消化できてなかったかぁ。そっかぁ。むなしいなぁ……。
更衣室で飲み込んだ小焼の性液も混ざってんのかな……。そう考えたら、すっげーエロいな……。あ、変なとこで興奮した。やばい。変な性癖開拓した。
目の前で豊かなおっぱいがぽよんぽよん揺れてるし……やわらかそうだな……。
「おっぱい……」
「は?」
「ご、ごめん! じゃ、じゃあ! ありがとう!」
まずいまずい。うっかり声に出しちまった。
おれは駆け出す。後ろから、はるの声がする。ひえぇ、めちゃくちゃ怒ってる声だ! 捕まったらタコ殴りにされそう! 小焼にぶん殴られるくらいにやばそうだ!
死ぬんじゃないかってくらいに全力で走ってゼミ室に戻れた。疲れた。ちょっと休もう。
自分の席に座る。写真立てが倒れていたから起こしておいた。お菓子でやられたんだろな。
写真立てに入ってるのは、小焼が大会新記録を出した時のだ。相変わらずの無表情で賞状持ってる小焼と横でめちゃくちゃ笑顔でダブルピースしてるおれ。……ダブルピースはダサいよぉって、ふゆに言われたんだよなぁ。
この時の記録はもう別の人に塗り替えられてるはずだ。何年前のだっけこれ……。うーん、裏面に書いてねぇかな?
写真立ての裏蓋を外す。メモが挟まっていた。何だこれ? こんなん入れたかな……。
『Ik zal voor je zwemmen. Dus blijf alsjeblieft bij me.』
……意味がわからない。何語だ。これは、何語なんだ? ここに挟まってるってことは、おれが挟んだんだよな? でも、全くわかんねぇぞ。記憶障害か? 頭打ったっけ? あ、シャワールームで小焼にキスされた時に頭打ってたな! たんこぶできてた! まさか、それで記憶障害が? くっそー、何だよこれ。何語だ?
「夏樹くん。目がすごい腫れてるけど大丈夫?」
「ちょっとホコリが入っただけだから大丈夫だ。あ、ミラ、これわかっかな?」
ゼミ室に戻ってきたミラにメモを見せる。もしかしたらわかるかもしれない。
「ミラわかんなーい!」
「そっかぁ」
「翻訳使えば?」
「その手があったな!」
早速翻訳アプリを起動する。……ダメだ。読み取ってくれねぇ。一個ずつ打ち込んでいくかぁ……。
「そういえば、さっき夕顔くんに会ったんだけど、夏樹くんにこれ渡して欲しいって」
「おっ、何だ?」
飴の袋を渡された。薄荷味の飴だ。うまいんだけどなぁ、薄荷味。おれはけっこう好きだ。タバコを吸いに行けない時には重宝してる。
疲れたからメモのことは帰ってから調べるとすっかな。クリアファイルに挟んでおいた。
「じゃ、おれは帰るよ」
「うん。バイバーイ」
「ばいばい」
手を振ってゼミ室を出る。家帰って一息ついたらバイトだ。
切り替えていかねぇとな! よし! がんばろ!
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