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 この教室は二階にあり、その声は窓の向こうの階下から聞こえてくる。 「泉ー!」  下の名前で呼ばれてまた胸が跳ねたが、そのお陰で俺を呼んだやつが誰だかわかった。今んとこ、俺のことを下の名前で呼び付けにするのは壱人以外に一人だけだ。窓の下を見下ろすと案の定、見慣れた坊主頭が目に入ってきた。 「泉、授業終わり?」 「うん」 「じゃあさ。待ってて。途中まで一緒に帰ろうぜ」  練習はどうしたんだよと聞いてみたら、橋本は雨で自主トレだからと言ってきた。大好きだからとかなんとか言い切ったわりには、相変わらずいい加減なやつだと思う。 「おお。待っ……」  待ってるから早く着替えて来いよと言いたかった声が、机を叩く大きな音に遮られた。  一瞬、しんと静まり返った教室。音がした方を見ると壱人が立ち上がって、鞄を引っつかんで教室から出て行くところだった。 「壱人、どうしたの?」  慌てて壱人の後を追う彼女を気遣わず、壱人は足早に教室から出て行った。  席を立った瞬間、 「帰るぞ」  そう一言、言い放った壱人。久しぶりに聞いた壱人の声が超不機嫌なそんな一言だなんて、我ながら泣けてくる。  なんで急にそうなったのか、俺にはさっぱりわからなかった。最近の壱人は無愛想で無気力で、何に対してもこんなに感情をあらわにしたことはない。  それからしばらくして、橋本が着替えて戻って来た。しきりに首を傾げながら、後ろを振り返る。 「なあ。新見(にいみ)のやつ何かあった?」 「えっ。なんで?」 「さっき廊下で擦れ違ったんだけどさ。ちょー機嫌が悪くて、擦れ違う時に思いっきり睨まれちったよ」  怖いのなんのって、そう続けながら、泉の幼なじみなんだろうとそう聞かれた。そう聞かれても、俺は曖昧にしか返事ができなかった。

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