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 両思いになった日から季節は巡り、夏の気配はすっかり消えてしまっている。見上げた空は高く青く澄み渡り、陽射(ひざ)しも同様に柔らかく感じる今日この頃。 「協力するって……?」  なんというか嫌な予感しかしなくて、恐る恐るそう聞いてみる。 「メイクの仕方だよ。彼女が教えてくれるってさ」 (うぎゃーっっ!)  と、予感は的中。壱人の馬鹿は事もなげにそう言って笑った。 「な、な、な……」  ちょっと待てーい!  それってば詳しく事情を説明しとかないと、俺は単なる女装が趣味のキモい男子高校生になるじゃんか。かと言って詳しく説明するには、俺たちの関係とか秘密を明かさなきゃいけないし。思い掛けない展開にわたわたしてると、 「大丈夫。二人の秘密は絶対に守るから」  彼女はそう言って、 「彼氏といちゃいちゃデートしたいから女装するなんて美味(おい)しすぎるし!」 「――――!!」  満面の笑顔をたたえて、そんな物騒なことを口にした。 「な、な……」  えーと。結木さん?  俺の聞き間違いじゃなければ、続けて(たぎ)るだとかなんとかおっしゃいましたよね。いわゆる展開が『美味しい』ってだけでも十分にそれだと証明できるわけだけど、その『滾る』は腐女子ご用達のいわゆるオタ語でもあるんですけども。 「すまん。泉。別れる時に新しい恋人ができたって言ったら、名前を聞かれて」  浮かれまくっていた壱人は思わず俺の名前をぽろりと口にしてしまい、その瞬間に結木さんの目の色が変わって現在に至るらしい。  呆気に取られている俺を尻目に、二人は元カノと元カレの関係とは思えないぐらい穏やかに談笑している。よくよく聞いてみると彼女は俺のどこがいいかを壱人に根掘り葉掘り聞いていて、壱人はデレデレしながらいちいちそれに答えていた。 「まあまあ、泉。こっち来て座れよ」  あのー、壱人さん。元カノと三人って、本当のところは修羅場っていう地獄絵図が見られる所なんですけども。  思わぬ展開になんだか拍子抜けしてしまい、俺は言われるままに壱人の隣に座った。

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