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二人の会話をステレオで聞きながら、なんとか口の中のものを小さく噛 み砕 いて飲 み下 す。
「まあ、そんなわけだから協力してくれない?」
「協力ったって……」
「私と付き合ってるって宣言しなくていいから。ただ聞かれたら曖昧にごまかすだけで」
いつにない真剣な顔の結木さんからそう言われて、俺は思わずこくりと頷 いてしまった。
なんと言うか。モテる男は……、女の子も。凡人からすれば贅沢に思えることで真剣に悩んでいる事実を初めて知った。壱人も結木さんもストーカー被害までには至らなかったものの、自分ちのポストに宛先も差出人の名前も何もないラブレターが入っていたことが何度かあるらしい。
その話を聞いた時の俺はただ単純に羨 ましいと思っただけだったけど、よくよく考えたらめちゃくちゃ怖いことだ。自分自身は名前も何も知らないやつが勝手に自分の住所を調べ上げて、自分ちのポストにこっそり手紙を投函して行く。で、その手紙の内容は自分をどれほど好きかをつらつらと書き綴った差出人の自分勝手な想いや、はた迷惑な妄想だけが羅列してあって。
「え、マジで?!」
「うん。思い切り引いたわよ」
あの恋人ごっこ宣言からこちら、俺と結木さんは毎日、昼休みを教室で一緒に過ごすようになった。翌日が休みの金曜日だけこうやって、壱人も含めた三人で昼休みを過ごす。
「だから期待を持たせるような断り方は危険なんだよな」
「そうそう。まだ自分にはチャンスがあるって期待させちゃうとね」
俺と結木さんの二人の時はベーコンレタスな話題で盛り上がり、三人の時は結木さんと壱人がお互いの悩みを愚痴り合って盛り上がっていたり。
秋の空は高くどこまでも澄み渡り、時々吹き抜けて行く風に身を縮めた。そろそろ屋上以外で三人でいられる場所を探そうとお互いに口にし合いながらも、未だに三人でこうやってこそこそやっている。
結局、例の噂は俺と結木さんが一緒に昼食を食べていることで噂の広がりは一応の終幕を見せた。悲しいかな結木さんの噂の相手が平凡な男子だということで、その男子があまりみんなに知られていないことがその理由だったりする。
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