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「二年の米倉? 誰それ」
噂を聞いたやつは、漏れなくそんな疑問を持つらしい。さすがにクラスメートだけは今だにこそこそやってるけど、結木さんたちが期待したような結果には至らなかった。
「陰が薄くて悪かったですねー」
そう自虐気味に拗 ねてみたらさんざん二人に笑われて、
「いいのいいの。彼氏がいるかもって匂わせるだけで言い寄って来る男も格段に減ったしね」
結木さんからはそう言われて、なんとも複雑な気持ちに陥る。それよりも屋上でこうやって壱人を含めた三人で落ち合っていることを誰かに知られたら、凡人Aと結木さんが付き合ってるって噂よりも大変なことになるんじゃないかな。
結木さんが元カレの壱人と現在 カレとの三人で屋上で落ち合ってるとか……、ここまで考えてまた悲しくなった。
これって完全に結木さんと壱人の噂ってことだよな。俺のことは結構どうでもいい感じの。例えば結木さんの新しい彼氏が壱人の幼なじみだって噂だとしたら、俺の名前とかには全く触れてないけど一応は俺の噂ってことになるんだろうけど。いや、元を返せばこれも壱人の噂か。
断じて結木さんと噂になりたいとかそんなんじゃないけど、ここまで陰が薄いとは我ながら思わなかった。そう思ったらなんか泣きたくなるじゃん。
「泉はホントは俺の恋人なんだからさ。噂はこれくらいがちょうどいいの」
思わずがっくりと肩を落とした俺の頭をくしゃっと撫でて、壱人はいつもの男前な顔で笑った。
結局は、複雑などこか煮え切らない気持ちを抱えたまま翌日を迎えた。今日は土曜日で、学校は休み。そして、結木さんから初めての個人レッスンを受ける日だ。
「泉ちゃん。おっはー」
「……んー」
ちなみに何気に古い、無駄にテンションが高いのが結木さんで、ご機嫌ナナメというよりまだ寝ぼけているのが俺ね。
ただ今の時刻は早朝、午前8時。この時間は一般的にはもう早朝じゃないか。だけど、休みの日の俺からすればまだ十分早朝だ。
「やーん。泉ちん、かわゆすっ」
「やらねえぞ」
お目付け役の壱人の立ち会いで、さっそく姉ちゃんの部屋へ連れて行かれた。
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