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 姉ちゃんの部屋は姉ちゃんの留守中もそのままにされていて、母さんが定期的に綺麗にしている。母さんに見られちゃまずい同人誌や漫画の(たぐい)は天袋に仕舞われているんだけど、結木さんの目はそれらを探すようにキョロキョロしていた。 「えーと、結木さん。姉ちゃんの秘蔵書はまた次の機会に」 「ほんと?!」  間違いなく探してたでしょうと言いたいところをぐっと我慢して苦笑うと、壱人が怪訝(けげん)な顔をする。急に機嫌を取り戻し、 「これで集中できるわー」  と、ほくほく笑顔の結木さんを尻目に俺は覚悟を決めて目を閉じた。  今日は取りあえず結木さんのメイクがどんなメイクなのかを知るために、レクチャーなしにメイクだけをしてもらっている。子供の頃から姉ちゃんのおもちゃだった俺は姉ちゃんのメイクは慣れっこだけど、姉ちゃん以外の人からメイクされるのは初めてのことだ。  メイクって当然人それぞれで、結木さんはギャルとまではいかないが、それなりに女子高生らしい化粧をしている。ナチュラルさも残してはいるけど、姉ちゃんのナチュラルメイクとはまた違うからちょっとだけ不安だったりもするんだけど。  鏡の前に座ったら最後、もうメイクをしてくれる人に全てを(ゆだ)ねるしかない。まな板の鯉状態にメイクを仕上がるのを待って……、って、俺、よく考えたら姉ちゃんのいいように(しつけ)られたよな。  俺の目の前、ドレッサーに並べられたのは結木さんが愛用しているメイク道具の数々。当然のように女の子は自分専用のメイク道具を持っていて、結木さんも基礎化粧品から何から全てを持って来てくれていた。  長い沈黙の中に、重苦しさはまるでない。姉ちゃんのベッドに腰掛けた壱人もそこにいるのかどうかも分からないくらいに静かで、結木さんが説明してくれる声だけしか聞こえては来なかった。 「これがコンシーラーで、ファンデーションでは隠し切れない顔のシミとかニキビを隠すものなんだけど……」  泉ちゃんには必要ないわねとかなんとか言われつつ、結木さんはメイクをしながら、その道具の一つ一つを説明してくれる。その中のいくつかは姉ちゃんが使ってないものもあって、綺麗になるためには努力を怠らない、そんな女の子の大変さを知る。

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