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 メイク中はほとんど瞼を閉じた状態で、いま自分がどんな状態になっているのかもわからない。全てのメイクが終わってウイッグをかぶせられたところで、 「……と、こんな感じかな」  結木さんは満足そうに笑った。どうやらメイクが完成したようで、恐る恐る目を開けてみる。 「すげ……」  俺が目を開ける直前、最初に口火を切ったのは壱人のそんな一言だった。 「――っっ」  どーよ、どーよとご満悦の結木さんのメイクの腕前に、俺は思わず声を失った。姉ちゃんのメイクと全く違うからか、いつものコスプレとはまた別人の女の子が目の前にいる。  ぷるんぷるんの唇はラメ入りのグロスでキラキラ光り、ぽってりとしていて我ながら美味そうだ。くるりと綺麗にカールした睫毛(まつげ)や頬骨辺りも微かにキラキラしていて、鏡の中の自分はどこからどう見てもそこら辺にいる可愛い女子高生にしか見えない。 「確かに化けたな」  思わず壱人がそう零したけど、改めて女の子のすごさを身をもって実感した。化粧という漢字は化ける・(めか)し込むと書くけれど、自分でもびっくりするくらいの変身ぶりだ。 「……女の子って怖い」  ここまで変身するんだもんな。騙し写メだとかプリクラ写真の写り方もだけど、女の子はどんな平凡顔でも可愛くなる魔法の手を持っているらしい。 「ということで、あとはこれに着替えてね」 「へ?」  気をよくした結木さんは極上の笑顔で笑って、俺に手提げの紙袋を一つ寄越した。  ――10分後。 「きゃーっ。泉ちん可愛いっ!」  俺の姿を見て、顎の下で両手を握ったお祈りのポーズでそんな奇声を上げたのはもちろん結木さんだ。着替えはなんと結木さんのブラとパンツ(可愛い苺模様だった……)まで入っていたけど、その着用だけはなんとか回避した。  真っ白な少し短めのキャミソールワンピは結木さんのだろうけど、悲しいかなサイズも俺にぴったりだ。胸を除いて。胸は姉ちゃんが俺のために手作りしてくれた特大パット入りの下着でなんとか間に合いそうで、ホッと安堵の溜め息をつく。

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