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結木さんは何やらたくらんでいるようで、さっきからぶつぶつ独り言を言っている。
「うん。やっぱり着替えは必要よね」
……はい? 結木さんのお下がりのを結木さんちから持ってきてくれるんじゃ……?
「ということで」
どうやら自分の中で悩みは完結したようで、結木さんは意味ありげに俺たちの方を見た。
なんというか、俺のこの流されやすい性格だけはマジでなんとかしないといけないかも。まあ、本気で嫌なことはきちんと嫌だと言うし、別にそんなにも嫌じゃないから流されてしまうんだろうけど。
女装……、もとい。女の子のコスプレにしても周りの偏見の目を気にせずにデートってか壱人と気兼ねなく出掛けられるし、壱人とのエッチにしても泣き叫ぶほどに嫌ってわけでもないし。
「うーぬ……」
それでもこのいい加減な……、もとい。柔軟な思考のお陰で深く悩むことはないけど、例の噂の火種になりそうな小さな出来事に頻繁に巻き込まれることになる。
「泉ちん、早く早く」
「……ちょ、ちょっ」
あのー、結木さん? さっきから何やら無駄に柔らか過ぎるものが、俺の左肘 にボヨンボヨンと何度も当たってるんですけども。
壱人も壱人だ。自分の恋人が女の子と腕を組んで歩いてるというか、女の子に腕をがっしりと組まれて引っ張り回されてるというのに平気な顔をしてるし。
もしかして壱人のバカは、変身後の俺を本物の女の子ように思ってるのかも知れない。あれからお洒落で可愛いネイルやら、ちょろりと申し訳程度に生えたすね毛の処理とか。いつもの姉ちゃんのおかっぱ風のボブじゃないギャル風のウイッグ(結木さんのヘアーメイク含む)で変身と簡単な昼食を済ませた俺たちは、結木さんのショッピングに出掛けるわよとの鶴の一声で家から引っ張り出されて今に至る。
いつものように母さんが買い物に行っている間に家を出て来たけど、女の子同士の買い物目的での外出は初めてだ。まあ、本物の女の子じゃないけど。
今日に関しては結木さんは壱人を邪魔者扱いしていて、出掛けに小憎らしく笑いながら荷物持ちとしてなら私たちに着いてきていいわよと最強の小悪魔発言をしたいきさつもあり。
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