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06
人見知りが激しい俺は、その時まで友達らしい友達がいなかった。言ってみれば泉が初めての友達であり、親友でもあった。泉と出会ってもう10年。今は幼なじみと言われる間柄なのだろう。
校門を抜けていつもより少しだけ逸 る気持ちに苦笑い、泉のクラス、C組のドアを開けた。瞬間、予鈴が鳴り、注目を浴びる。
(……また、か)
泉の隣には橋本がいた。泉のクラスメートで、野球部員でもある男だ。ただのクラスメートだとわかっているのに、その坊主頭を目にするだけで無性に腹が立つ。泉の隣にいるのは本来ならば、俺のはずだったのに。
橋本は今の泉にとって一番の友達で、泉にとっては親友と言える存在らしい。自分の本心に気付くまでは、そのスタンスは俺のものだったのに。
どこで間違ってしまったんだろう。なんで俺、ひと時も側から離したくないやつを見守ることすらできなくなってしまったんだろう。
こちらをちらりと見てきた泉。次の瞬間には俺らから視線を外し、橋本に笑い掛ける。
クラス中の視線を一身に浴びたまま、俺たちは教卓の真ん前の席を陣取った。空いてる席がそこだけしかなかったのもあるが、泉に見せ付ける。そんな意味合いも込めて。
仲よさ気な俺たちを見て、泉が嫉妬すればいい。些 か歪んでしまった愛情は、ここでもドロドロに渦を巻く。
「米倉、早く課題のノート写せよ。もう先生来るぞ」
「わ、ちょっと待って!」
なのに背後から漏れ聞こえてきた泉の声は俺を全く気にしていないようで、歯痒さに唇を噛んだ。
俺が南高校を受験したのは前途のように、泉の偏差値ならまずは進路に選ばないと思ったからだ。しかも俺の成績も泉と同じようなもんだから、出来る限りの受験勉強はした。
「……は。南校?」
「うん。家から近いしさ」
だから受験の数日前に泉から自分も南校を受験すると聞かされた時は、もしかして泉も俺のことを……、なんて自分に都合のいい解釈をしてしまったのだった。
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