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07
正直、もしかして泉も俺のことを好きなんじゃないかと思ったことは一度や二度じゃない。泉は隠し事ので出来ないやつだから。
だけど、きっと泉の好きは俺の好きとは違う。それが分かっているから俺は泉には近付けない。
「じゃあ、今日の分を渡すから取りに来い」
今日の監督教師のヤマセンがそう言って、名前を一人一人呼んでいく。補習授業は一人一人のノルマが違っていて、それぞれが課題に取り組む形になる。
それぞれの教科の教師が作成したプリントで不足分を補っていくのだが、俺と泉のような赤点組は違って来る。追試とも言えるテスト用紙が手渡されて、それで及第点をもらったら補習はそこで終わるのだけれど。
比較的、出席日数不足の生徒より軽いノルマだが、俺たちのようなおバカがそう簡単に達成するわけがない。去年の夏休みも、泉も俺も補習授業を受けた。ただ、去年は泉とはクラスも離れていて、その間の泉の行動を知らない。
去年の夏、か。泉はどんな風に過ごしていたんだろう。補習授業を受けたことには違いないだろうが、そんな普通のことも知らないことがとても悔しかった。朝から少しあやしかった空模様。授業が始まった辺りから、とうとう雨が降り始めた。
夏の夕立は悪戯に、それまでの天候をがらりと変える。授業が終わり、ざわめきを取り戻した教室。
「米倉、どうだった?」
「……聞いてくれるな」
泉と橋本のそんな会話が鼓膜の奥を引っ掻いた。どうやら橋本は一時限だけを受けるらしく、泉に一声掛けて教室を出て行った。一人残された泉は退屈なのか、机の上にうなだれている。
「ねえ、壱人。次の時間はどうするの?」
不足部分を補うために不足分の時間だけの授業を受けなければいけない補習組とは違い、俺たち、赤点組は及第点を取るだけと些か余裕がある。
「帰るか」
少し考えてそう言って、どっかりと座っていた椅子から立ち上がった。
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