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「……来たこれ。嫉妬フラグ」 「……は?」  結木さんの嗜好を考えると二人の会話にはちょっとした不安もあるけど、結構気が合ってると……、ん? 「おまえら。いいかげん頭上で喧嘩するのはやめてくれ」  なんとなく結木さんを見れば腐女子の顔に変わっていて、俺は慌ててイヤホンを外して二人の会話を止めたのだった。 「……はあ。おまえらいったいどんな話をしてたんだよ」 「別にー。ね、橋本くん?」 「――っっ」  まあ、聞かなくてもわかるけどね。結木さんが俺のことに関してあることないこと難癖をつけて、橋本をからかったに決まってる。 (あーあ、可哀相に)  目の前の橋本はそんなことを言われて、 「便所っ!」  そう言い捨てると真っ赤なをしたまま、休み時間が終わる直前の教室を出て行った。  どうやら結木さんの方が橋本より一枚上手(うわて)だったようで、つまりは橋本は尻尾(しっぽ)を巻いて逃げ出した状態なわけで。 「頼むからあんまり橋本を(いじ)めないでよ。いいやつなんだからさ」 「や。ごめんごめん。つい、ね」  頭をポリポリと掻きながら結木さんはそう言うと、 「ね。橋本くんのこと好き?」  唐突にそんなことを聞いて来た。 「好きだよ。いいやつだしさ」  恐らくは台詞の後半をなかったことにしたんだろう。そう言いながら結木さんを見遣れば、彼女は真っ赤な顔でバンバン机を叩いて身悶(みもだ)えていた。  なんというか、これが腐女子と腐男子の大きな違いなんだよな。結木さんと話したり観察していると、いつもそれを実感する。  腐男子で一応はノンケであるはずの俺は二次元には萌えるけど、所謂(いわゆる)ナマモノと呼ばれる三次元では妄想出来ない。何しろ俺自身が当事者の男なんだから、実在する男と男がなんちゃらとかは全く考えられない。  いや、違うな。自分自身が男と付き合っているから同性愛については偏見もクソもないけど、実在する同性愛者じゃない男をカップリングしたり、その男で妄想することが出来ないって感じかな。  恐らく性格的なこともあるんだろうけど、俺には実際の友達だとかをカップリングするのは絶対に無理だ。例えば俺と壱人みたいに本物のカップルが身近にいたら、そいつらである程度は想像も出来るんだろうけど。

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