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04
恐らくは女の子の方が想像力が豊かなんだと思う。ベーコンレタス的に言うと妄想力が。結木さんは俺と橋本を頭の中で掛け算して、うっかりフラグが立ってしまったんだろう。どっちが右側かは考えなくても分かるから、考えたくもないけど。
それから程なくして休み時間は終わったが、橋本はしばらく帰って来なかった。
そんなこんなで慌ただしい放課後を迎え、
「泉」
壱人が迎えに来たから席を立つ。その声に一瞬シンと静まり返っていた教室も、今は一瞬ざわめくだけだ。
壱人と別れた結木さんと俺が付き合い始めたって馬鹿げた噂も今はすっかりなりを潜 め、俺と壱人が幼なじみだってことを知った女子から話し掛けられたりするぐらいに平穏な日常が戻って来た。
「橋本。今から部活か。がんばれよ」
余裕たっぷりな壱人のその言い方が気に食わなかったのかどうだか、橋本は一瞬壱人を軽く睨み付けると俺たちの横を擦り抜けるように教室を出て行った。
「泉。帰るぞ」
そんな橋本を全く気にしていない壱人はそう言うと、
「ちょ、待てよ」
俺の腕を強く引く。壱人に腕を引かれた俺と壱人は、何もなかったかのように教室を後にした。その時にちら見した結木さんが例の顔をしていたのは、見なかったことにしようと思う。
「……――――!」
何か叫んでいる結木さんは慌てて荷物を鞄に詰めて帰宅準備をすると、バタバタと俺たちの後を追って来た。
「はあ、やっと追い付いた。ねえ、バス停まで送ってよ」
追い付いた結木さんは俺と壱人との間に割り入って、両側から腕を組んで来る。
「邪魔すんな」
最近は落ち着いてきたけど基本的に俺様な壱人は、そう言い捨てて結木さんを軽く睨んだ。そんなことで怯 む彼女であるはずもなく、
「いいじゃん。ついででしょ」
そう言うと俺たちの腕を強く引いたまま、くるりと踵 を返す。
バス停は学校から程近い場所にはあるが、位置的には俺たちの通学路の反対方向だ。結木さんと壱人が付き合っている頃は、通学路とは反対方向へ消える壱人を見掛けて切ない思いもしたっけ。
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