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それにしても、世の中は本当に不公平だと改めて思う。なんであんなに整った顔のやつらが、壱人のそばには自然と集まるんだろう。
一年一年を過ごしている間にも、壱人が年々かっこよく男らしくなっていくのを感じていた。自分はちっとも変わらないのに、そう思うとそれが悔しくもあり。
当の本人の壱人は、年々男っぷりが上がり、男である俺が嫉妬するぐらいになって来た。その嫉妬は同じ男としてのそれで、壱人が他の誰かとどうこう(浮気)じゃなく、その辺りがまた複雑なのだけれど。
水上と村上。二人の話題を中心に壱人といつものように一戦交え、帰路に着く。
あ。えーと、セックスの意味するところの一戦交えるじゃなくて、雑談に花が咲いたってだけだから。そこんとこは勘違いしないように。
――って、なんに対してそう言ってんだか俺ってば。
自分にツッコミつつ、玄関先で壱人といったん別れて玄関のドアを開ける。
「ただいまー」
家の中に向かって一声掛ければ、
「お帰りなさい」
パタパタとスリッパが立てる軽快な音の後、白いエプロンで手を拭くドラマのワンシーンのような母さんがこちらに向かって来た。
思えば姉ちゃんが大学で不在のなか、俺は言ってみれば大事な一人息子ってスタンスなんだろう。
「今日は早かったわね。壱人くんと一緒じゃなかったの?」
「うん。一緒だったよ。後で壱人の部屋に行くから」
専業主婦の母さんは、今は唯一手を掛けられる俺に構って何かしらお節介とも取れる世話を焼いて来る。俺と壱人が付き合っているこの状況も、壱人と俺が仲直りして、また昔のように二人で遊び始めたと思っているらしい。
実際の俺たちは喧嘩も何もしてはいないんだけれど、そう思われている方が何かと都合がいいから勘違いされたままにしておいた。
玄関先で母さんと軽く会話して、二階への階段を上 る。階段を上 がったすぐが俺の部屋で、制服のブレザーだけを脱いでベッドに仰向けに寝転がった。
何と言うか、今日は出来れば『よろしく』したくないやつらに『よろしく』されてしまった。出来れば関わりたくない男前二人と知り合ったわけで、その男前二人は女装した俺のことを壱人の新しい彼女だと思い込んでいたりする。
壱人のバカが女装した俺の写メをやつらに俺の彼女だと紹介して見せたからだけど、そう考えれば元凶は壱人のバカ、略してバカ人で、壱人にとっては理不尽だろうけど、壱人のことを一発殴りたくなった。
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