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 確か去年は村上が女装部門で優勝したなと、不意にそんなことを思い出した。 「えー、絶対いいとこまで行くと思うのにな」 「泉には男のファンとかいらねーの」  村上がやっていているバンドはビジュアル系のバンドで、村上の女装はかなり本格的なものだったらしい。俺は生憎(あいにく)、見てないけど。  村上はもともとが美形の中でも、男前というよりは美人と言った方がいいような見た目だからそれも頷ける。 「男のファンより腐女子のファンが増えるんじゃない?」 「は?」 「ちょ、結木さん!」  不意に聞こえてきた腐女子というワードに、意識が目の前の出来事に戻された。 (ちょ、なんてことを言うんだよ!)  きっと壱人は、腐女子がなんなのかは知らないだろうけども。  ここ最近、一部でベーコンレタスなブームが起き、一般的にもボーイズ・ラブや腐女子という言葉が知られてしまった。まあ、俺なんかは腐男子であることを今まで必死に隠して来たから必要以上にそのワードにが気になるだけで、一般的にはそんなでもないんだろうけれど。  そのいい例が壱人で、全く興味がないやつには縁のない話だ。たまにニュースだとかテレビ番組で取り上げられたらドキドキはするけど、興味のないやつはスルーする話題だろうからさ。  放課後、いつものように壱人と一緒に帰ってるところに当たり前に結木さんが現れた。この光景自体も当たり前のようになって来ており、今は振り向く者もいない。 「それよりさ……」  必死で話題を()らそうとしてる俺を見て、小さく吹き出した結木さん。彼女は今日も教室で同人誌を読み耽っていたり、腐女子であることをあまり隠そうとはしない。まあ、必死で腐男子であることを隠さないといけない俺とは違って、バレようがバレまいが全く気にしてもないんだろうけどさ。  俺と同じように、腐女子の中にも必死で隠してる子もいるだろうけど。そんなことを考えていたら、不意にある考えが頭に浮かんだ。 「……泉?」 「あ、ごめん。なに?」  それは隠れ腐女子もいることだし、もしかして身近に腐男子はいないかなってこと。実は俺が姉ちゃんにこの世界に引き入れられてからこちら、腐女子には遭遇するも未だ腐男子には会ったことがないんだよな。

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