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(し、しまった……)  そう思った時、すでに遅し。しかも運悪く大声を出したのはちょうど結木さんが歌い終わった瞬間で、思い掛けずみんなから注目されてしまう。 「……あ。え、と」  俺に声を掛けてきたのは村上で、当の本人は呆気(あっけ)に取られた顔をしている。 (まあ、そうだわな……)  普通、この状態ならそうなるだろうなと思いつつ、どうやってこの場を切り抜けようかと考えること数秒。 「……ぶっ」  村上とは反対側の斜め前に座っている水上が、盛大に吹き出した。  ……おいこら。水上。俺、なんか面白いことでもしでかしたかよ?  そう言ってやりたいけど、口をぱくぱく動かすのが精一杯で何故だか声が出ない。 (くっそー。なんだよ、その爽やかな笑顔)  どうやら……、壱人もだけど。イケメンという人種は例え破顔しながら爆笑しても、その整った顔が崩れることはないらしい。 「かっわいー、なに緊張してんの」  ひーひー引きずり笑いながらそう言った水上の一言に、壱人の肩がぴくりと跳ねた。……ような気がした。 (……うっわー、なんだよ。このカオスな状態は)  全員が全員個性が強すぎるからか、ここにいるみんなが悪いやつらじゃないのは分かっているけど、凡人の俺からすれば絡みづらいことこの上ない。どうやら橋本もそう思っているようで、ちらりと横を見遣れば橋本が視線でそれを訴えてくる。  水上と橋本はそんな様子で村上はと言えば、さすがはバンドのボーカルらしく歌がとんでもなく上手かった。美形でいながら歌も上手いだなんて、これはこれでモテてしょうがないんだろうな。そんなことを人ごとのように思いながらも、俺も一応は何曲か無難な流行りの曲を入れて歌った。  壱人には悪いけど、こいつらと遊ぶのはこれが最後だと思う。これからはお前とこいつらだけで遊んでくれと心の中で独りごちながら、なんとかその場をやり過ごした。壱人と結木さんも相変わらずマイペースで、夕方過ぎにはお開きになる。 「じゃあな。また学校で」  そんな挨拶を交わしてみんなと別れた時には、緊張のし過ぎかどっと疲れが襲ってきたような気がした。  この日の俺は自分のことで精一杯で、結木さんが歌った明らかに腐女子を対象とした深夜アニメの主題歌に水上の耳がぴくりと反応したこととか。そんなこれからのこのメンバーと俺との関係に繋がるサインを、いくつか見逃してしまったのだった。

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