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「ちょ、壱人。待てってばっ」
俺をほっといて、ずんずん先に行く壱人の後を追う。リーチ(歩幅)の違いで、俺は自然と駆け足になってしまった。
言っとくけど、俺の足が短いからじゃなくて、壱人の足が長すぎるだけだからな。あーと、惚れた欲目とかじゃなくて、壱人の場合は背もそれなりに高いからで……、まあそれはどうでもいいや。
壱人のやつ。なんかとてつもなく機嫌が悪そうなんだけど、ひょっとすると俺のせいなんだろうか。けど、壱人の気に障 ることでもしでかしてしまったのかと考えてみるけど、思い当たることは何もない。
「壱人、ごめんっ」
仕方がないから取りあえずは謝ってみる。
「……ぶっ!」
そしたらまた、壱人の足がぴたっと止まって。
「…………」
しこたま打った額を撫でながら軽く見上げたら、さっきと同じ冷たい視線で見下ろされていた。
もう一度、必死にさっきのやり取りを思い返してみるけど、やっぱり壱人がなんで怒っているのかが分からない。いつもと同じ、特に取り留めのないことを話してただけだ。
その中に、壱人が気に障るワードでもちりばめられていたんだろうか。ぐるぐる考えること数秒、思わず涙目で軽く睨みつけてしまったようで、
「……はあ」
壱人は心底呆れたような溜め息を一つつくと、俺の肘の辺りを掴んで俺を強く自分の方へ引き寄せた。
「ちょ、壱人」
この辺は普段からあまり人通りがない場所だけど、急な展開に少し戸惑ってしまう。壱人は普段からスキンシップが激しい方だけど、一応は世間的にも単なる幼なじみで通しているのに。
「おまえさ。ホントに悪いって思ってる?」
「うん。もちろん」
「じゃあさ。何に対して悪いと思ってるか言ってみて」
そう言われても、
「……あー。えと」
返事ができなかった。思い当たることがないんだから当たり前なんだけど、俺を見下ろしてくる壱人の視線がますます冷たくなってくる。
「そんな目で見てもだーめ」
「……なっ、ちょっ!」
無自覚ながら、俺はほとんど泣きそうな顔をしていたんだろう。壱人はそう言うと、真正面から俺のことをぎゅっと強く抱きしめると、さっきぶつけた額をぐりぐり撫でてきた。
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