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そんなふうに俺のことをぎゅうぎゅう締め付けてくる、ちょっと歪んでいるけど愛情のこもった動作とは裏腹に、壱人の眼差しは呆れたように俺のことを冷めた目で見てくる。壱人は、再びはあっと大きな溜め息をつくと、俺をきつく抱きしめていた腕の力を抜いた。
「おまえさ。さっきから橋本のことばっか」
「はあ?」
それからぶっきらぼうにそんなことを言った壱人にすねられて、思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。
「……俺、そんなに橋本のことばっか言ってた?」
「うん」
即答されて思わず返事に詰まったけど、確かにそうだったかも。
「……ごめん」
けど、言い訳をさせてもらえば橋本は壱人と共通の唯一の男友達で、名前が出るのは仕方ないと思うんだけど。それに橋本はクラスメートで、俺らは四六時中一緒にいるんだし、そう考えると橋本の話題になるのも仕方ないじゃんか。
結木さんの話題になっても、今ではなんともなかったくせに。そんなことをぶつぶつ心の中で愚痴っていたら、ふとあることに思い当たった。
俺たちが立ち止まっている場所は人通りも少ない場所だけど、少し行くともう俺たちの家が見える地点で、
「壱人こそ、村上と水上の話ばっかじゃん」
俺がちょっと愚痴り気味にそう言うと、
「はあ? 俺がいつ……」
今度は壱人が素 っ頓狂 な声を上げる。
そう言えば壱人の口から出るのは村上と水上の話題が大半で、やれ村上が何をしただとか水上がどうとかの話ばかりで、俺も同じように橋本の名前を無意識に口にしていたのかも知れない。俺が言ったことに思い当たる節があったのかどうだか、壱人は不意に黙り込んでしまった。
俺はと言えば村上と水上の名前が出て、二人と壱人が遊んだとか言われてもただの友達なんだし、嫉妬をするでもないんだけど。壱人は俺たちが付き合い始める前に少しだけ橋本に嫉妬してたみたいだし、そんなこともあって機嫌を損ねてしまったんだろう。
「なあ、壱人。その……、橋本は友達以上でも友達以下でもないから、さ」
どう言ったらいいのかが分からなくて、仕方なく今口にしたら壱人が一番喜びそうなことを言ってみた。
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