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 伝わったかな、俺の気持ち。 「あー、えーと……」  壱人はそんな言葉にならない声を上げながら前髪を掻き上げると、なんとも気まずそうな顔をした。実は橋本以外で共通の友達と言えば結木さんぐらいだけど、彼女との会話は正直、腐った話ばかりだから話題にできないんだよな。 「これからは、なるべく橋本の名前を出さないように気をつける」  それでも謝罪の意味も込めてそう言うと、壱人はなんとも照れ臭そうな顔で笑った。返事の代わりに居住まいをただした壱人と二人、俺たちの家に向かって歩き始める。  よほど照れ臭かったのか、壱人は真っ直ぐ前を向いて喋り続けた。俺はと言えばそんな壱人の右隣り、一歩後ろを黙って着いていく。  壱人が嫉妬してくれたことは、実はちょっとだけ嬉しかった。橋本と俺との関係を疑われることは正直、ムカつくけど、ただの男友達の橋本にまで妬いてくれたのかとそう思うと。斜め後ろから見上げた壱人の首の後ろはまだ少し赤くて、それがなんだかとても可愛く思えた。  壱人に言ったらどんな顔をされるのかはわからないけれど、こんなに可愛い男を他に知らない。可愛いと言うか。愛しいと言うか……、なんと言うのかよく分かんなくて、おまけに照れ臭いけど。多分、自分が思っている以上に壱人のことが好きで、おまけに大事なんだと思う。 「……今日さ。その、お袋は夜勤だから、うち寄ってく?」 「うん」  そして多分、壱人もそうだ。  この日の俺は真っ直ぐ帰らず壱人の家に寄り、いつも以上に仲良くしてから家に帰った。

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