116 / 138

26

腐った話とイケメンと  結局はあーだこーだ言いながら、壱人が好きだと言うことに行き当たる。 「なんだかなあ……」  そう思うと、ちょっとだけこっ恥ずかしくもあるんだけどさ。 「こらっ、泉ちん! 口より手を動かす!」 「はいはい」  あれから何日かが過ぎ、俺たちは本格的な学園祭の準備に取り掛かった。  結局、俺たちのクラスの出し物はお化け屋敷に落ち着き、俺は大道具を任された。お化けが苦手な俺にはお化けの担当は無理だし、メイクや衣装の担当も男の俺には無理だったりするからだ。  クラスで一番のイケメン、橋本はドラキュラ伯爵の仮装に決まり、結木さんは他の女子と一緒にお化けの衣装とメイクを任された。結木さんは一緒に作業するうちにクラスの女子とも少しだけ仲良くなったようで、結木さんの周りにいる女子が彼女に叱られた俺を見てクスクス笑っている。 「……なんつーか」 「あん?」 「平和だなあ……」  思わず漏れた、その一言を聞いていた同じ大道具担当のクラスメイトに不思議な顔をされてしまった。  イケメンズとカラオケに行った日からかなりの日数が過ぎ、それでいて変わりない日常にホッと胸を撫で下ろす。壱人が嫉妬して俺から遠ざけているのか、有り難いことにバス停以外で水上や村上に会う機会はない。  基本的にはバス停の前を通ることはないし、結木さんに送ってと頼まれることがない限りは行くこともない。学校の前の道路の向こうに小さく見えるそれを眺めて、踵を返して家に帰る毎日だ。  やっぱり俺には華やかな世界は分不相応(ぶんふそうおう)で、こうやって地味にクラスに溶け込んでいるのが一番(しょう)に合う。壱人には悪いけど、できればこんな風にひっそりやっていたい。  慣れない金づちやのこぎりと格闘しながら、そんなことをぼんやり思った。壱人と一緒にいることが嫌なわけじゃないんだけど、できれば学校ではそっとしておいて欲しい。  壱人と付き合うまではあんなに同じクラスになりたがったくせに、今は壱人とクラスが違ったことにホッとする。学校でも壱人と四六時中一緒にいれば、俺たちの関係もばれてしまいそうだし。  あのバカ人が学校でも盛って来ないとは限らないし、今更ながらにこの距離感は有り難い。そんなどうでもいいようなことを考えていたからか、 「いてっ!」  手にした金づちで、人差し指をしこたま打ち付けてしまった。

ともだちにシェアしよう!