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「米倉、大丈夫か?」
「……ってえ。うん。大丈夫……、って。おま、橋本?」
「おうよ」
金づちで打ち付けた指を口に含みながら顔を上げると、そこには特殊メイクを施した橋本がいた。
「……ぶっ」
衣装はまだ出来てないから制服のままだけど、なかなか本格的な仕上がりに思わず吹き出してしまう。
少し灰色み掛かったファンデーションに厚く白塗りされて、青や黒のシャドーなんかの特殊効果は某女性だけの歌劇団の男役スターのようだ。キリッとした眉毛の昭和の男前顔にそのメイクはよく映えて、とても化粧映えしている。
「なんで笑う」
「や、ごめん。つい」
つくづく惜しいなあ。いろいろと。メイクを担当した結木さんをちらりと見遣ったら、目が合った瞬間、ドヤ顔で自慢げに上体を後ろに反らした。
それから壱人たちのクラスの出し物はどうなったかと言うと、どうやら本格的に執事&メイド喫茶に決まったらしい。ただ、どうやら女装と男装は似合うやつだけがすることになったらしく、村上は予想通りにメイド役で壱人と水上は普通に執事役で接客するようだ。
「つか、壱人と水上が執事って!」
それを壱人から聞いた瞬間、俺様執事が接客している姿を想像して思わずそう突っ込んでしまった。
「なんだよ。文句あるか?」
どっちかと言えばこのイケメン二人は、執事と言うよりはホストクラブのホスト役の方が似合いそうだ。そう壱人に言ったらデコピンされたけど、それが本心なんだから仕方ない。
どうやらホストクラブの件も検討してたけど当然のように学校側に却下されたらしく、当たり前っちゃ当たり前なんだけどホスト姿の二人を想像した俺は思わず笑ってしまった。
放課後ともなると、校内はどこもかしこも賑やかに学園祭準備に追われている。うちの学校はこの期間は部活動も休みのところが多く、その辺りは進学校ならではで、うちの学校の生徒は学園祭に息抜きを求める生徒が多い。
「んー。なんつーか、青春って感じ?」
思わずまたそんな独り言を言ってしまったけど、いい加減慣れたのか、さっきのクラスメイトが口を挟んでくることはなかった。
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