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(――やばっ!)
そういや、すっかり壱人の存在を忘れていた。別に壱人のことを待つって約束していたわけじゃないが、学校から帰った壱人がうちに来るのは分かり切っていたことだ。
おまけに携帯のことも忘れていた。一時限目の授業が始まった時にマナーモードにしたまま、そのままにしている。どおりでLINEも電話もなくて静かだったなと今更ながらに思い出して、
「壱人、ごめん! 遅くなった!」
慌てて自室のドアを開けた。
「あー、えーと……」
その、さ。俺が一方的に悪かったのもわかってるし。だから、ちょっとは弁解させて欲しいんだけど。電気もつけないでベッド脇にどっかり腰を下ろしている、その表情 の怖さったらもう。
魔王降臨って、まさにこのことを言うんだろうな。RPGで言うところのラスボス。ドアを開けると久しぶりに俺様な壱人が、冷めた瞳でベッドに座っていた。
「電話にも出ないでどこに行ってた?」
慌てて携帯電話の着信履歴を調べてみたら、壱人の名前がずらりと並んでいる。まさかと思ってLINEを調べてみるとそちらも同じ状態で、こちらは怖くて開ける勇気が出なかった。
「えっと、本屋に……」
「へえ。4時間以上もか?」
続けて何を買ったんだと聞かれたけど、当然のように答えられなかった。
よくよく考えてみたらお目当ての本を買ったのは水上だし、俺は本屋に4時間も(実際には大半はファストフード店だけど)いながら肝心の本は買ってはない。おまけにその本が本だけに、もし本当に買っていたとしても本のタイトルを答えられない。
「……口の端にケチャップついてる」
「えっ!」
どうやら不機嫌なままの壱人に試されたようで、口の端を拭った手の甲には壱人が言うようにケチャップはついていなかった。
長い沈黙が続く。壱人に顎で隣に座るように促され、恐る恐る隣に座る。
「泉、あのさ」
「う、うん」
「別におまえが誰とどこで何を食べようとそれはいいんだよ。ただ……」
「ただ?」
「ちゃんとホントのことを言って欲しい。それだけだ」
その後に、それからちゃんと電話には出ろと壱人は付け加えた。
結局は本当のことは言えなくて、結木さんに付き合わされてハンバーガーを食べてきたことにした。
(結木さん、ごめん)
どうやら壱人はにおいで俺がハンバーガーを食べたことに気付いたらしく、そのことに関しては嘘をつき通すことができなかったからだ。
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