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07
一瞬、初めて自分でメイクをしてみた日のことを思い出した。俺が初めて自力でした化粧は、見るも無残な所謂オネエメイクだ。彼女のメイクはあん時よりは遥かにマシだけど、決して男ウケするものじゃない。
「ってか、男にウケてどうすんだ」
思わず自分にツッコミを入れる。
「まあ、大丈夫だろ」
もし万が一にも女装した時の俺と同じになってしまったら、もう女装で出掛けなきゃいいだけのことだ。そもそもが好き好んで女装してるわけじゃないんだし、その……、なんだ。別にデートなんかしなくてもいいし。
「泉」
その日の放課後。そんなことをいろいろ考えてたら、壱人が俺を迎えに来た。その声に、慌てて荷物を鞄に詰める。ふと壱人の方を見ると、黒板をじっと見つめていた。やばいと思ったけど遅すぎた。
「なに。泉がC組の裏コン代表?」
俺の名前を確認した壱人は、気が抜けたようにそう呟いたのだった。
いつもより少しだけ速足で帰る通学路。その原因の、俺より確実に歩幅が広い壱人の後を追う。
時刻はもう夕方というよりは夜といってもいい時間帯で、辺りのオレンジ色が宵闇に溶けていく。足元から飲み込まれていくそれに、新月は味方をしてはくれないらしい。
「暗くなるのが早いと思ったら、今日は月が出てないのな」
突然黙り込んでしまった壱人に、心底どうでもいいことを口走ってしまう俺。それを聞いているのかいないのか、ともかく壱人が不意に足を止めた。
周りに秘密にしてなきゃいけないのに、壱人は俺が代表になったと聞けば喜びそうだ。ずっとそんなことを思ってたんだけど、こちらを振り向いた壱人の顔は予想とは裏腹に複雑な表情をしている。
嬉しいような困ったようななんとも言えない顔をして、言葉を探しながら小さく唸って頭を掻いた。
「まさか泉が代表になるとはなあ。もしかして、くじ引きで決めた?」
「あー、えーと……」
俺のくじ運がないのを知っている壱人は、やっぱなと呆れたように言って苦笑う。それから家に帰るまで、何故だか壱人の機嫌は悪かった。
多分、母さんは買い物にでも行っているんだろう。珍しく施錠された玄関のドアを合い鍵で空けて家に入る。
「ただいまー……」
いつもの癖で言ってしまったけど、当然のように返事はなかった。
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