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一目惚れ②
「僕は彼女がひとりだとちょっと心配だったから、送らせて貰っていただけなので。
方向も違うし、邪魔すると藍さんに怒られそうなので、次の駅で失礼します」
藍と同じ大学に通っているなら確実に俺より年下なはずなのに、笑っていてもどこか少しだけ冷めたような印象を受けるその妙に大人びた表情に、何故か心惹かれた。
......まぁ同性の俺が勝手に心惹かれたところで、今ここで別れたらもうこの男と逢う機会などないと思うから、何の意味もないワケだが。
「なら翔真 君も、家に来なよ。
一人暮らしだって言っていたし、どうせ毎日ろくなもの食べていないんでしょう?
今日はウチ、すき焼きらしいよ!」
屈託のない笑顔を浮かべ、藍が無邪気に誘った。
「急にお邪魔するのは、申し訳ないから。またの機会に、ね」
戸惑ったように、答える男。
『またの機会に』なんて答えたけれど、こんなのはたぶん社交辞令だろう。
彼がウチを訪れる事は、きっとない。
......そうか。コイツの名前、翔真って言うんだ。
「大丈夫!お母さんいつも、かなり多めに食材を買ってくるから。
侑人 もよくうちに、食べに来るんだよ」
彼氏の名前を藍が出した瞬間、一瞬だけポーカーフェイスが崩れた気がした。
だから俺は、気付いてしまったんだ。
コイツは藍の事が、好きなのだと。
......だけど藍は翔真の事なんて、本当にただの友達のひとりとしか思ってはいないのだとも。
でも彼が表情を崩したのは、ほんの僅かな間だった。
すぐにまた穏やかな笑みを浮かべ、何事も無かったかのように静かな口調で彼は答えた。
「ありがとう、藍さん。でも急にお伺いしたら、ご迷惑じゃ......」
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