4 / 90

一目惚れ④

 たぶん俺は孫の顔を、両親に見せてあげられない。  だからそれは妹に任せて、その分しっかり稼いで老後の面倒は見てあげなくちゃなって思う。  そしていつか藍が結婚して、子供を生んだら、めちゃくちゃ可愛がってやるつもりだ。  家に向かう途中さりげなく探りを入れてみた結果、彼は藍と同じ大学の学生で、同じサークルの一年生である事。  そして実家は関西の片田舎で、現在は俺の住むマンションのすぐ近くに、ひとりで住んでいるらしい事などが判明した。  ......それとこれはちゃんと確認したワケじゃないけれど、やっぱり藍に片思い中なんだろうなっていう事も。  冷たい雰囲気の彼の瞳が藍を見る時、ほんの少しだけ柔らかく、優しくなる。  彼女と話す時だけクールな表情が崩れて、心から幸せそうに笑う。  初めて藍の事が、妬ましいと思った。  彼女は、女で。  愛してくれるやさしい恋人も、いて。  ......なのにこの男にまで、惚れられているのだから。  自分がもし、女だったら。  自分がもし彼と同じ年齢で、彼と同じ大学に通っていたら。  ......あるいは自分がもし、藍だったら。  そこまで考えて、心底げんなりした。    だって俺は、男で。  彼よりも四つも年上で、社会人で。  ......そしていくら顔の造りが似ていたとしても、彼が好きなのは俺じゃない。  だけど出会ったばかりの彼と、これっきりの関係にしたくなかった。  だから彼の帰り際、当たり前みたいに連絡先の交換を提案した。  翔真は俺がそんな風に考えていただなんて、微塵も思ってはいなかったのだろう。  何の疑問も持つ事なく、笑顔で応じてくれた。  特別何かが起きる事を、望んだワケじゃない。  ただこの男との繋がりを、0にしたくなかった。  ......それだけの、はずだった。

ともだちにシェアしよう!