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ボーダーライン②
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温まったから皿にご飯と一緒にカレーを盛り付け、前もって準備していた温泉卵とお手製の福神漬けを添えた。
「やっぱり、今日も美味しい。
翠さんは、良いお嫁さんになれそうですね」
普段は礼儀正しい癖に、時々コイツはしれっとこういうふざけた冗談を、悪戯っ子みたいな顔をして言う。
......本当に、たちが悪い。
幸せそうに頬張りながら、子供みたいに無邪気に彼は笑った。
そんな仕草を見て、ふとコイツは昨年までは高校生で、制服を着ていたんだもんなと思った。
......男な上にこれだけ年の差があれば、俺は絶対彼からしてみたら、対象外だよな。
「......お嫁さんって、何だよ。
俺、男だぞ?
こっちが欲しいわ、そんなもん」
本当に欲しいのは、翔真。
......嫁なんぞじゃなく、お前だけどな。
そんな事は、勿論言える筈もなく。
......俺はわざとテンション高く、しれっと探りを入れた。
「そう言えばお前、付き合ってる女の子は居ないワケ?
いつも俺の呼び出しに、素直に応じてくれてるけど」
「いまは、居ないですね。
......想う人は、居ますけど」
困ったように微笑みながら、うつ向き答える翔真。
それを聞き、心臓がギリギリと締め付けられたみたいな気がした。
「へぇ......そうなんだ。
その子と、上手くいくと良いね」
彼の事などなんとも思っていないふりをして、笑顔で答えた。
だってそうやって誤魔化す事が出来るくらい、俺は大人で。
それなりに、出逢いや別れも経験もしていて。
......そしてそうやって誤魔化してまで、コイツの側に居たかったから。
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