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ボーダーライン③
「ありがとうございます。
でもその人は俺の事なんて、全然そういう対象として見てないから、上手くいくとかは絶対に無いんですけどね」
ちょっと寂しそうに、下を向いて静かに微笑む翔真。
苦しくても、悲しくても、平気な顔をして笑えるようになったのは一体いつの頃からだろう?
そんな風に考えて、こっそり苦笑した。
「まぁ、恋愛は難しいよな。
......自分だけ想っていても、逆に相手からだけ想われていても成立しねぇから」
俺と、お前みたいにね?
最後の言葉は、胸の内だけに留めた。
なのに俺の目を真っ直ぐに見つめ、翔真は聞いた。
「なんか、リアルですね。
それは翠さんの、経験談?」
だけど何て答えるのが正解か分からず、曖昧に笑って言った。
「んー......、内緒」
翔真の唇が、ちょっと不満そうに尖った。
そういう表情は、普段の彼からは想像もつかないくらい幼くて、可愛くて。
俺は友達の兄貴という立場を利用して、彼の頭をまるで犬にでもするみたいにワシワシと撫でた。
「子供扱い、やめて下さいよ!
僕もう、大人ですよ?」
そういう事を口にしてしまう所が子供なのだと、気付いてすらいないであろうコイツが愛しい。
「アハハ、そうだな。
辛口のカレーも、大人な翔真は食べれるもんな?」
ニッと笑って更にからかうと、完全にヘソを曲げてしまったのか、それ以上彼は俺に突っ掛かっては来なかった。
......可愛いヤツめ。
でもその幼い言動に、同時に少しだけホッとしている自分もいる。
だって彼の事を本当は性的な目で見ているだなんて知られたら、もう翔真はきっと二度と、うちに遊びに来てはくれなくなると思うから。
大人と子供の、境界線。
この時の俺はこのラインがあっさり壊れ、彼と関係を持つ日が来るだなんて、ほんの少しも考えてはいなかった。
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