12 / 90
らしくない①
『翠さん、すみません。
急なんですけれど、明日家にお邪魔しても良いですか?』
ある日翔真から届いた、一通のメッセージ。
急と言いながらも当日ではなく、ちゃんと一日余裕があるところがなんとも彼らしい。
誘うのはいつも俺ばかりだったから、その内容に少し驚きながらも、とても嬉しかった。
だからここが職場の喫煙所であるのも忘れ、自然と顔が緩んでしまった。
「また例の、プラトニックな片想い相手?
......翠もそういう顔、するんだな」
俺の手からスマートフォンを奪い取り、勝手にその内容を確認すると、和希はニヤリと笑った。
だからそれにちょっと苛立ち、直ぐ様奪い返した。
「お前には、関係ないだろ?」
珍しく、つい棘のある言い方をしてしまったけれど、彼は特に気にするでもなくニヤニヤとまた感じ悪く笑った。
「うん、確かに。
俺と翠は、そういうのじゃないもんね。
でもホント、らしくないよね?
......ちょっと、妬けちゃうなぁ」
彼はスッと俺の手を取り、そのまま口元に持っていくと、ちゅっと音を立てて口付けた。
「そういう事を言う、お前の方こそらしくないだろ?
......ちょっと、気味が悪いんだけど」
そう。こういうのは、この男らしくない 。
だって誰に対しても執着心を持たないこの男は、ベッドの上では甘い言葉のひとつも囁かず、いつも俺の身体を玩具みたいに弄ぶだけなのだから。
でもそれがかえって気楽で、だから付き合ってきたという部分もあるけれど。
彼の唇を避けるみたいに、手を引いた。
すると和希はクスクスと可笑しそうに笑い、俺の顔を覗き込むようにして言った。
「そう?でも俺割と、お前の事気に入ってるから。
......だから今夜、久しぶりにどう?」
ともだちにシェアしよう!