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らしくない①

『翠さん、すみません。  急なんですけれど、明日家にお邪魔しても良いですか?』   ある日翔真から届いた、一通のメッセージ。   急と言いながらも当日ではなく、ちゃんと一日余裕があるところがなんとも彼らしい。  誘うのはいつも俺ばかりだったから、その内容に少し驚きながらも、とても嬉しかった。  だからここが職場の喫煙所であるのも忘れ、自然と顔が緩んでしまった。 「また例の、プラトニックな片想い相手?  ......翠もそういう顔、するんだな」     俺の手からスマートフォンを奪い取り、勝手にその内容を確認すると、和希はニヤリと笑った。  だからそれにちょっと苛立ち、直ぐ様奪い返した。 「お前には、関係ないだろ?」  珍しく、つい棘のある言い方をしてしまったけれど、彼は特に気にするでもなくニヤニヤとまた感じ悪く笑った。 「うん、確かに。  俺と翠は、そういうのじゃないもんね。  でもホント、らしくないよね?  ......ちょっと、妬けちゃうなぁ」  彼はスッと俺の手を取り、そのまま口元に持っていくと、ちゅっと音を立てて口付けた。 「そういう事を言う、お前の方こそらしくないだろ?  ......ちょっと、気味が悪いんだけど」  そう。こういうのは、この男らしくない(・・・・・)。  だって誰に対しても執着心を持たないこの男は、ベッドの上では甘い言葉のひとつも囁かず、いつも俺の身体を玩具みたいに弄ぶだけなのだから。  でもそれがかえって気楽で、だから付き合ってきたという部分もあるけれど。  彼の唇を避けるみたいに、手を引いた。  すると和希はクスクスと可笑しそうに笑い、俺の顔を覗き込むようにして言った。 「そう?でも俺割と、お前の事気に入ってるから。  ......だから今夜、久しぶりにどう?」

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