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らしくない②
正直なところ、最近ちょっと仕事が立て込んでいた事もあり、俺もご無沙汰気味だった。
だから多少の不快感を覚えながらも、彼の誘いに乗る事にした。
「......別に、良いけど。なら俺んち、来る?」
「うん、行く」
和希は嬉しそうにニコッと微笑み、俺の頬に軽く口付けた。
「職場でそういう事、すんなって言ってんだろうが。
......次やったら、ぶん殴るから」
ギロリと睨み付けてやったのに彼はくくっと可笑しそうに笑い、悪びれるでもなく言った。
「了解、善処します」
「善処じゃなく、絶対すんな。
......ホントお前、軽過ぎなんだよ」
一時期コイツにはまり掛けていた時は、こういったやり取りもただ嬉しかった。
だけどこの男が誰に対してもこうなのだと気付き、一気に不快になった。
なのにそれ以降も惰性だけでズルズルと関係を続けているのは、体の相性が良過ぎるからに他ならない。
だからコイツもきっと、他にも夜のお相手がいるにも関わらず、時折こうして俺の事を誘うのだろう。
しかし一度割り切ってしまうと、どうという事はない。
気を遣わないで済む相手と、タイミングが合う時にだけ逢い、気持ちいい事をして、熱を与え合う。
それの一体、何が悪い?
「そろそろ俺は、先に戻るわ。
6時に、ロビーで待ち合わせな」
それだけ言うとスタンド型の灰皿に煙草を押し付け、火を消した。
「OK、じゃあまた後で」
艶やかな微笑を浮かべ、和希は俺に向かい手を振った。
だから俺も片手を軽く挙げてそれに応えると、喫煙所をあとにした。
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