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体だけの関係①

「和希って......それってよく翠さんの話に出てくる、同じ職場の男性ですよね?」  じっと瞳を見つめたまま、聞かれた。  ......コイツにはこういうの、バレたく無かったんだけれどな。  しかし今さら隠すのも面倒だったし、これ以上こんな不毛な関係を、想いを隠したまま続ける自信も俺には無かった。  それに純粋そうなこの男がどんな反応を返して来るのか、少しだけ気にもなった。 「うん、そうだよ。  ......俺の、セフレの一人」  いつもみたいに笑って答えると、彼は戸惑ったように視線をさ迷わせた。  セフレというだけでも引かれそうなのに、しかもその相手が同性とか。  優しい翔真の事だからきっと、藍に俺のこんな話をしたりはしないだろう。  それだけが、唯一の救いだな。  だけど、ハハ......完全に、終わった。  そんな事を、ぼんやりと考えていたら。  翔真はクスリと笑い、俺の手首を掴んで引き寄せると、強く抱き締めた。   「......どういうつもりだよ?」  激しく動揺しながらも、震える声で聞いた。  すると翔真はなおもクスクスと笑いながら、俺の顎に指先を添えて上を向かせると、荒々しく唇をキスで塞いだ。    突然の事に混乱し、彼の体をドンと押して離れた。  だけど彼は俺の頬に手を伸ばし、静かに微笑んで言った。 「僕ね、男もいけるんで。  翠さん、僕とも遊んでくれませんか?」  ......コイツは一体、何を言っているんだ?  予想外過ぎる、お誘い。  でもそこで、気付いた。  コイツの好きな女はたぶん、俺の妹の藍だ。  だから彼女とよく似ている俺の事を、その代用品にでもするつもりなのだろう。    だが俺からしてみたら、願ってもない申し出だ。  だってどの道この男の心までは、どうせ俺のモノにはならない。  ......だったらせめて、体だけでも。  

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