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当たり前みたいに③
***
昼食を終え会社に戻る途中、和希が聞いた。
「なぁ、翠。
......今日もまた、お前んち行ってもいいか?」
コイツが連続してこういう風に誘ってくるのは、本当に珍しい。
これまでのペースから考えたら、これはかなり異例な事な気がする。
それこそたぶん、初めてなんじゃないかと思うくらい。
「んー、さすがにパス。
......寝不足気味で、だりぃ」
昨日は翔真の、その前はこの男の相手をしたせいで、さすがに体力的にしんどかった。
そしてそれ以上に、翔真に上書きされたキスマークをコイツに見られるのは何となく気不味かった。
だから断りの言葉を口にすると、彼は少しだけ苦しそうな顔をして、それから力無く笑った。
「そっか。なら、良いや。
ごめんな、翠」
断ったのは、俺の方だったはずなのに。
そんな風にコイツが言うのも、そんな風に情けない顔をされるのも不快だった。
心が、モヤモヤする。
だから当て付けがましく大きな溜め息を吐き、つい言ってしまった。
「はぁ......何だよ?その顔。
そんなにヤりたいなら、他を当たれば良いのに。
......ったく、しゃーねぇなぁ。
いいよ、来ても。
でも今日は、あんま遅くまで付き合わないからな」
すると和希はホッとしたように、心から嬉しそうに笑った。
それにドキリとさせられると同時に、こうやって笑ってくれる彼を見て、心の靄 が少しだけ晴れたような気がした。
......ほんの、少しだけだけれど。
「ありがとう、翠。
......なるべく無茶は、させないようにするから」
蕩けそうなほど、甘い微笑み。
......コイツは前から、こんな風に笑う男だっただろうか?
一瞬だけそんな事を考えたけれど、これもきっと和希の手口のひとつなのだろう。
だって彼には、他にもセフレなんて腐るほど居て。
......俺はその中の、お気に入りの一人に過ぎないのだから。
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