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心が求めるモノ①

 結局その日は案の定和希に何度も抱かれ、寝不足のまま出社する羽目に陥った。  しかしその後は特に何事もなく、平穏なまま翔真と約束した土曜を迎えた。  てっきり夜にウチに来るものだとばかり思い込んでいたのだけれど、彼は俺に予定が無ければ、近くのショッピングモールに買い物に行くので付き合って欲しいと言ってきた。  これまでプラトニックな友達関係だった時ですら、そんな風に二人で出掛けた事など一度も無かった。  だからその申し出にかなり驚いたけれど、嬉しかったから素直に受け入れた。 「翔真。最近ここに出来た、文房具店があるの知ってるか?  俺ああいうの、昔からすごい好きでさぁ。  ......ちょっとだけ、見に行って来ても良い?」  俺は彼がどんな物が好きで、どんな事に興味があるのか気になったから、ずっと翔真について回った。  彼は別に俺になんかほんの少しも興味がないから、てっきり解散してしばらくの間自由行動になるものだとばかり思っていたのに、彼も一緒にその店について来た。  子供の頃から俺は文房具が何故かやたらと大好きで、面白いデサインだったり、新しい機能を持つ物が発売される度、友達は皆ゲームやら漫画やらに夢中な中、小遣いを握り締めひとり足繁く文具店に通い続けた。  そして新作を手に入れる度ニヤニヤと眺めたり、試しに使ってみたりして満足しているような、ちょっと変わった子供だった。  その習性は社会人になった今も続いており、ここに大型店舗が入るのだと聞いた時から、絶対に一度は来ようと心に決めていたのだ。 「翔真!見てみろよ、これ。  気温が零度以下にならないと、書いた文字が現れないペンだって!」  未来の世界からやって来た、猫型のあの青いロボットの秘密道具みたいで、こういうのを見ると心が踊る。  だけど翔真はそれを手に取り、クスッと笑って言った。 「へぇ......こんなの、あるんですね。  だけどこれを買ったところで、使い途なんて全然無さそうですけれど」

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