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穏やかな日曜日①

 キッチンから漂ってくる、食欲を擽る薫りで目を覚ました。  その日は中々寝付けなかったのだけれど、いつの間にか俺も、翔真の隣で深い眠りについていたようだ。    気だるさを残した体を起こし、立ち上がろうとしたタイミングで声を掛けられた。 「おはようございます、翠さん。  ちょうど、良かった。  今起こそうと、思っていたところだったので」  穏やかな笑みを浮かべ、翔真は言った。   「ん......、おはよ。  もしかして、朝食の準備してくれたの?」  ベッドの上に座ったまま聞くと、彼はちょっと困り顔で笑った。 「はい。食材は勝手に、冷蔵庫にあった物を使わせて貰いました。  いつも翠さんには作って貰ってばかりなので、たまには僕が用意してみようかと思ったんですが」  正直、意外だった。  だって彼は自炊なんて、するイメージが全く無かったから。  そのため少しだけ返事が遅れたため、彼は申し訳なさそうに眉尻を下げた。 「えっと......もしかして、迷惑でした?」    だから慌てて立ち上がり、彼の体に強く抱き付いた。 「まさか!ありがと、翔真」  ちゅっ、と頬に軽く口付け、笑顔を返した。  すると彼もちょっと照れ臭そうに笑い、唇にキスを返してくれた。  セフレなんて言いながらも、こうやって甘やかしてくるだなんて、無意識だとしてもやっぱりずるい男だと思う。  なのに恋人みたいに扱われる事が、こんなにも嬉しいだなんて。 ***  彼が用意してくれていたのは、サンドイッチとサラダ。  それとミルクと砂糖がたっぷり入った、温かいカフェラテまで。 「サンドイッチ、うま!」  ひとくち口に含んだ瞬間、思わず漏れた感嘆の声。 「隠し味に、らっきょうを入れているんです。  ピクルスよりも食感が良いし、ちょうど冷蔵庫にあるのを発見したので」 「あぁ、そうなんだ。  確かにこれは、良いアクセントになってるな」  素直に感想を述べると、彼はちょっと得意気に、どや顔で笑った。  そしていつもは大人びて見える彼の、そんな表情につい目を奪われた。  この不意打ちは、卑怯だろ。  ......可愛いが、過ぎる。

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