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穏やかな日曜日③

 その日は結局ダラダラと、テレビを見たり他愛もない話をしたり、時々キスを交わしたりしながら家で過ごした。  そして俺はいつの間にかソファーに座ったまままた少し、うとうととうたた寝をしてしまっていたようだ。  ハッと目を覚ますと、彼はこの間俺が買った例のペンの蓋をちょうど閉めるところだった。 「それ、俺のなんだけど?  ......興味無さそうにしてた癖に、なんで勝手に使ってんだよ」  無駄遣いだと年下のコイツに諭されたのを思い出し、ちょっと嫌味を込めて言った。  すると翔真はニッと悪戯っぽく笑い、答えた。 「すみません。ちょっと目に入ったものだから、試し書きをしてみたくなってしまって。  ......これ寒いと本当に、書いた文字が現れるんですかね?」  買ったその日に早速試し、書いた紙を冷やしてみたところ、ちゃんと文字は浮かび上がった。  だけど中々この東京で氷点下を下回るなんてことは無いし、何処かにコイツに落書きをされていたのだとしても俺は、もしかしたら気付かないかもしれない。   「どっかになんか変な事、書いてないだろうな?」  ペンを彼の手から奪い取り、じとりと睨んだ。  だけど彼はクスクスと笑うだけで、それ以上何もこの件について答えようとはしなかった。 ***  そのままふたり、夕方近くまでのんびり過ごした。  夕飯も一緒に食べて行くのかと思ったのだが、それは申し訳ないと思ったのか、窓の外がオレンジ色に変わる頃、彼はそろそろ失礼しますと言って静かに微笑んだ。  思わず引き留めたい衝動に駆られたけれど、さすがにそれはセフレの域を越えているかもしれない。  だって俺達は、恋人なんかじゃない。 「今日は、ありがとうございました。  翠さん、また僕とも遊んで下さいね?」  ......遊ぶって、どういう意味で?  そんな疑問が頭に浮かんだけれど、これはきっと、聞いたら駄目なヤツだろう。  重過ぎると言われ、男に捨てられた黒歴史を思い出し、無理矢理笑顔を作って答えた。 「うん、こちらこそ。  翔真、またな。気を付けて帰れよ」

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